山の中で泊まる…日帰り登山では味わえない非日常の体験です。
下界から離れ街灯りに邪魔されない山の中だからこそ見られる満天の星空や、稜線上の山小屋から見られる感動的なご来光など、山で過ごす明け暮れは絶景のオンパレード。
テントに泊まるのも方法のひとつですが、食糧・自炊用具・テントなどの装備を揃えて背負う負担や荒天の際のリスクを考えると、特に登山初心者でメリットが大きいのは山小屋に泊まること。
けれども、山小屋未経験の人にとっては不安もいっぱい。汚い?暗い?窮屈?そんな不安を解消し、楽しく快適な山小屋の過ごし方をご紹介します。
※注…ここで紹介する山小屋は、日本アルプス・八ヶ岳・尾瀬などの有人小屋を想定しています。北海道・東北・屋久島などのいわゆる「無人小屋」「避難小屋」には当てはまらない話題が多いので、ご了承ください。
そもそも山小屋の位置づけって? どんなところ?
山小屋は宿泊施設であると同時に、山の中では色々な役割を果たしています。
昼間は併設の売店や食堂で泊まらない人も楽しむことができますし、隣接する幕営地(テントを張る場所)の管理をしていて、テント泊する人がここで幕営料を支払ったり、飲料水を購入するのも山小屋です。また、万が一の遭難事故発生の際は救助隊が宿泊したり、テント泊するつもりだった人が台風や吹雪でとてもテントを張れる状況でなく「やっぱり泊めて下さい」ということも。
そう、基本的には「泊まりたい」という人を、混んでいるから…などの理由で簡単に断ることができないのです。けれども、それなら予約なしでいつ行っても大丈夫かというと、それは大昔の話。
ハイシーズンの週末だと、廊下や談話室まで寝ている人がいる光景もたまに見かけますが、やはり快適とは言い難いですよね。食糧も、限りある物資をヘリコプターや歩荷さんが苦労して運び上げているものです。基本的には、あらかじめ予約をした上で出かけましょう。
山小屋に到着!さあ、どう過ごす?
山小屋の中ってどうなっている?どのように過ごしたら良い?
そんな疑問に、山小屋がどんな設備から成り立っているかとあわせて、ご紹介します。
☆玄関(受付・下足箱)
到着したら、まずは玄関に隣接した受付(番台・カウンター形式が多い)へ。
ツアーの場合は添乗員が代表で受付を行いますが、ここでは個人で行く場合も想定して、受付時に何をするかをご紹介します。
まず、いわゆるチェックイン。宿帳や受付カードに名前や食事の要不要、場合によっては翌日の行動予定なども記入して提出します。
食事は1泊2食(夕食・朝食/翌朝早く出発する人は朝食を弁当に変更可の場合も)、1泊3食(夕食・朝食・翌日の昼食弁当)、素泊まりなど様々ですので、自分の予定に応じて選びましょう。
そして、宿泊代を支払い。通常の旅館と大きく違うのはこの前払いのシステムです。翌朝暗いうちから出発する人もいるので、多くの山小屋がこの方法をとっています。
さて宿泊代ですが、おおよそ1泊2食で9,000円+翌日の昼食弁当1,000円というのが平均的な相場でしょうか。考えようによっては、決して安くありません。しかし、1年のうち限られた期間しか営業できない(富士山の山小屋だと7~8月の2カ月程度)ことや、前述した食糧や燃料などの消耗品の荷揚げのコストと手間、トイレの管理などを考えると、「こんな不便な山の中で泊まれるなんて、むしろ安い」と考えて欲しいところです。
宿泊代を支払うと「自分が泊まる部屋」と「食事の時間」を伝えられます。個人客の場合は宿案内カード的なものを渡されることもありますが、ツアーの場合は添乗員がここから部屋割をして口頭で伝える事も多いので、忘れずにメモしましょう。
履いてきた登山靴は玄関で脱ぎます。それを玄関やその周辺の下足箱に入れる場合と、ビニール袋などに入れて客室かその周辺に持ち込む場合がありますが、特に前者の場合はいわゆる「取り違え」に遭わないように、下足札を利用したりそれがなくても自分で目印をつけたりして、対策しましょう。
☆客室
靴を脱いだら客室へ、まずは自分が寝る場所を確認しましょう。客室の様子は小屋によって様々です。畳に雑魚寝、蚕棚や2段ベッドなど、また寝具も布団と毛布(混雑時はひとり1枚利用できない場合も)、シュラフ(寝袋)など様々です。
基本的に相部屋利用なので、まず先客がいたらひとこと挨拶を(昼寝している人もいるので配慮を)。そして、自分の寝るスペースを確保します。これも、小屋によってベッド番号や区画番号でしっかり「あなたはここで寝て下さい」がわかる小屋とそうでない小屋があるので、特に後者の場合は“袖ふれあうも他生の縁”の精神で、譲り合ってそれぞれのスペースを確保してくださいね。
ザックですが、客室まで持ち込める場合(ベッド式の山小屋に多い)もありますが、たいていは客室前の廊下までです。1日背負ってきたザックは、汚れていたり濡れていたりしますからね。なので、ザックの中から客室で(もしくは山小屋滞在中に)使うものを出して、自分の寝るスペースの枕もとあたりにまとめて置いておきましょう。
※各小屋とも写真とは別のタイプの客室に宿泊する場合もあります。
☆トイレ
山小屋のトイレですが、同じ建物内にある場合と、隣接する別の建物にある場合があります。特に後者の場合、周辺の幕営地でテント泊している人と共同で使用する事が多いです。
最近の山のトイレは基本的に「チップ制」。テント泊の人や泊まらずに立ち寄るだけの人が利用する場合は最低100円以上、チップ箱に料金を入れて利用しますが、宿泊者は使用料が宿泊代に含まれていることが多いので、基本的には都度チップを払う必要はありません。
さて、気になるのが「キレイさ」「におい」ですが…。
こればかりは、その山小屋の立地や設備にある程度左右されてきます。下水設備が整っているところや微生物を利用して汚物を分解するバイオトイレと、汚物槽に貯めておき定期的にそれを交換(この揚げ下ろしも相当大変)するトイレでは、やはり差は出てきます。
むしろ、みんなが快適に使えるように清潔さを保つ心配りや、そのトイレごとのマナーを守って利用しましょう。多くのトイレはトイレットペーパーを便器に捨ててはいけないところが多いので、備え付けのごみ箱に捨てるようにしましょう。
また、意外に多いのが携帯電話や財布などポケットの中の小物を落としてしまうケース。こればかりは山小屋の人も対応できないので、注意しておきましょう。
☆洗面所
そこから出てくる水が飲料水として使用できるか(たいてい使用可)、ハミガキ粉や洗顔料を使用できるか(たいてい使用不可)、確認した上でマナーを守って使いましょう。
飲料水として使用可能であれば、安心して水筒に補給しましょう。またハミガキ粉使用不可の施設で使用してしまうと、環境汚染に直結しますので「自分だけなら」みたいな軽い気持ちは絶対にやめて下さい。
水の確保が大変な稜線上の山小屋では、洗面所がないところもあります。後述の「持っていくと便利なグッズ」で対策をご紹介します。
またこうした山小屋で飲料水が必要な場合は天水(雨水)を有料で購入します。
☆お風呂
まず、お風呂がある山小屋の絶対数は少ないです。水源に近い谷あいの山小屋や尾瀬など、また温泉や鉱泉にある山小屋など限られた場合のみ、お風呂がついています。
幸運にもお風呂のある山小屋に泊まれる日は、ありがたく入浴させてもらい身体をほぐしたり筋肉の疲労をやわらげてあげて下さい。
ただし、下水設備はない関係で石鹸・シャンプーなどの使用は不可のお風呂が大半ですので、前項の洗面所同様にマナーを守って使用しましょう。山小屋でお風呂に入れること自体が恵まれていることですので、汗を流すだけでも十分リフレッシュできますよ。
小屋によってはチェックイン時にフェイスタオルをくれるところもありますが、バスタオルはもちろんありません。コンパクトで吸水性の良いタオルなどを持って行きましょう。
また、温泉や鉱泉など「歩いてしかいけない秘湯」には野趣あふれる露天風呂があったりしますが、もちろん混浴、登山道からまる見え…な場所も多いので、特に女性は(男性も)水着を持っていくと、秘湯を存分に楽しめます。
☆山小屋での服装
設備の話からいったん脱線しますが、山小屋未体験の方が気にするのが、どういう服装で過ごすのか?です。
旅館のように浴衣がある訳ではありませんので、基本的に自分で持ってきたものを着て過ごします。
Tシャツに短パンみたいなラフな服装でくつろぐ人もいますし、お洒落な女性だとコンパクトに畳めるワンピースで過ごす人もいますが、たいていの人は汗や汚れのついた服を脱いで、翌日着ていく服に着替えただけで過ごしています。
パジャマなどを持っていってもそれらを全て背負って行動することを考えると、基本的には荷物の軽量化とコンパクト化を優先することをおすすめします。
☆売店・外来食堂
夕食までに時間があれば、ぜひ立ち寄ってみましょう。バッジ・手ぬぐい・バンダナ・Tシャツ・絵葉書など、そこでしか買えないかわいいグッズもありますので登山の記念に購入するのも良いでしょう。また、外来食堂(たいてい外から靴を脱がずに入れる)は宿泊しないテント泊や休憩のみの登山者に食事を提供する施設ですが、コーヒーやアルコールなどを楽しむ喫茶としても利用できます。
☆乾燥室
雨の中の行動で濡れてしまった雨具などを乾かすために、夏でもストーブを焚いている乾燥室のある山小屋も増えてきました。濡れた装備を客室に持ち込むのは他の人にも迷惑になりますので、ここでしっかり乾かしましょう。ただし、下足箱同様に「取り違え」のリスクはありますので、自分のものにはしっかり目印を付けておくことをおすすめします。
☆食堂
さて、待ちに待った夕食の時間です。たいていの山小屋は宿泊定員よりも食堂の定員が少ないので、基本的にはチェックイン順に「あなたは何時からの回です」と指定され、その時刻を書いた食券を渡されます。おおよそ一番早い回で17時~18時からスタートし、混雑している日などは4~5回転する事もあります(山小屋ではこれを「4回戦」「5回戦」と言ったりします)。時間ぎりぎりに行くと食堂前が長蛇の列…ということもよくありますので、時間に余裕を持って少し早めに並んでおくことをおすすめします。
食事のメニューですが、基本的にはメインの肉・魚のおかずやサラダ・煮物・漬物などが予めテーブルに並べられており、着席したテーブルから、温かいごはんとみそ汁(たいていおかわり自由)が配膳されます。ごはんはおひつ、みそ汁はお鍋、お茶はポットごと渡される場合も多いので、協力しあって周りの人の分もよそってあげてくださいね。
ただし、これはあくまでも一例。おかずは好きなものを好きなだけ自分でとるビュッフェスタイルの山小屋や、趣向を凝らした名物メニューのある山小屋も多いので、おなかいっぱい楽しんでください。
※各小屋とも写真とは別のメニューが提供される場合もあります
また食事中にそれぞれの小屋の主人や支配人によるお楽しみ(山のよもやま話から写真スライド上映、楽器演奏、天気予報まで様々)が開催される事も多いので、こちらもお楽しみに。
アルコールを飲みたい場合は、基本的に売店や自動販売機で購入したものを各自で持ち込んでもらいます(宿泊代を前払いしているので追加の請求が生じないため)。
言うまでもないことですが、深酒は禁物。翌日の登山に悪影響を及ぼすだけでなく、高山病悪化の原因にもなります。高山病のリスクの高い富士山の山小屋では、そもそもアルコールを販売していない施設がほとんどです。
前述の通り、後の回の準備もありますので長居は禁物。だらだらとお酒を酌み交わしたり、長話に興じるのは後にして、食べ終わったら早めに席を立ちましょう。
☆談話室
食事が終わったけれど寝るまでにはしばらく時間がある、あるいは到着後に食事までにまだ時間がある、はたまた悪天候で登山をあきらめ山小屋に停滞…そんな時のために談話室がある山小屋もあります。
よくある設備は、テレビ(天気予報を見たい人が多いので勝手にチャンネルを回さない)、書架(山岳雑誌や山の写真集が多い)、それにソファや座布団などでしょうか。
初対面の人同士でも好きな山の話で盛り上がったり、意外な人との邂逅を果たしたり、様々な出会いがある場所ですので是非立ち寄ってみてください。
夕食時に飲み足りない、語り足りない人の行き先になる場合もありますが、そもそも飲食禁止の談話室もありますし、大声で盛り上がっていると他の人が利用しずらい雰囲気にもなりますので、そこはわきまえて利用しましょうね。
☆ふたたび客室
たいていの山小屋は20時か21時に消灯時間を迎えます。翌朝は暗いうちから出発する人もいますので、この時間までには翌日の身支度やお手洗いを済ませ、自分の寝床に戻りましょう。翌日に弁当を注文した場合、前夜のうちに渡されることが多いのでこちらも忘れずに受け取りを。では、おやすみなさい☆
☆翌朝の流れ
朝食を山小屋で摂る場合は、前日と同じ要領で食堂へ。
この時水筒を持っていったり、前夜のうちに水筒を預けておくと、温かいお茶を入れてくれる山小屋も多いので、利用しましょう。
利用した寝具は、きれいに畳んで元の場所へ。忘れ物がないかを確認して、出発です。
山小屋泊であると便利なグッズ
*ヘッドランプ
これは、便利というより必需品。消灯後にトイレに行ったり、翌朝暗い客室で身支度を整える際に必要ですので、枕もとに置いておきましょう。
*耳栓・アイマスク
混雑した相部屋で安眠の妨げになるのが、周りの人のいびきや寝息、そして夜中にトイレにいったり早朝に出発する人のヘッドランプの明りです。相手に文句を言うのでなく、ご自身で対策しましょう。
*マスク
埃や乾燥に弱い人は、体調維持のためにも利用しましょう。
*除菌成分の入ったデオドラントスプレー・ドライシャンプーなど
お風呂や洗面所のない山小屋で身体をさっぱりさせたい時に活躍します。ウェットティッシュも便利なのですがゴミは持ち帰りです。また匂いを嫌う人もいるので、周囲に配慮して使いましょう。
*折り畳めるエコバッグ・ウェストポーチ・サコッシュなど
食堂、売店、談話室など色々なところに移動することが多い山小屋の中。財布・携帯電話などの貴重品を置き忘れないよう身に付けておくのに便利です。
*歯ブラシ・マグカップ
旅館のように歯ブラシはもらえません。また洗面所にコップの備え付けがない山小屋も多いので、歯みがきをする際に便利です。
*山スカート
お風呂のない山小屋で、トイレや客室で着替える際に意外と便利です。
以上、山小屋で過ごすコツを覚えていただき、ぜひ、快適な登山ライフを楽しんでください。
(登山ガイド:鷲尾太輔)
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