ベートーヴェンの「第九」(交響曲第9番)は、年末になると日本でよく演奏されますが、ベートーヴェンを生んだ国ドイツでは、「第九」を年末に演奏するという習慣はありません。しかし例外的に戦前から演奏されている街があります。それは偉大な劇作家・詩人シラーが、「第九」の4楽章に使われた「歓喜に寄す」という詩を書いたライプツィヒです。

シラーが「歓喜に寄す」の詩を書いた家

「第九」が誕生した家

シラーは、1785年5月7日~9月11日、ライプツィヒ郊外ゴーリスにある農家の一室に滞在し、「歓喜に寄す」を書きました。その家は現在、記念館として公開されていますが、世界中の人に愛され、歌われている「愛と平和と喜び」をテーマにした詩が、こんなに小さな部屋で書かれていたことに誰もが驚かされてしまうでしょう。10代の時に「歓喜に寄す」に出会っていたベートーヴェンは、平和と人類愛を謳った内容に感動し、かなり早い時期からこの詩をもとに作曲しようと思っていたようです。そして詩との出会いから曲の完成までに実に30年以上の歳月を要したことになります。

1785年、シラーはここで「歓喜に寄す」を書いた、と記した銘板

「第九」の初演

「第九」はベートーヴェンの最後の交響曲で、新しい試みとして独唱と合唱を加えた最初の交響曲です。そしてこの成功により、後の交響曲の一スタイルを確立したと言えます。1824年5月7日にウィーンで初演された時、すでに聴力を失い、耳が全く聞こえない状態だったベートーヴェンは、ウムラウフという指揮者と共に舞台に立ちましたが、終演後、演奏会の「失敗」を感じていたこともあり、熱狂的な拍手喝采には気づきませんでした。独唱者の一人が、ベートーヴェンを聴衆の方に向けさせ、ようやく「成功」を確かめることができたという逸話が残されています。

元祖「年末の第九」

ライプツィヒでの初演は、1826年3月6日にゲヴァントハウス管弦楽団の演奏で行われました。その後年末に演奏されるようになったのは1918年のことです。第1次世界大戦終結後の混乱と激動の時期でしたが、「人類すべてが兄弟になる」という平和の願いを込めて、12月31日、23時過ぎに音楽監督ニキシュの指揮で演奏が始まり、新年へ向けて「歓喜に寄す」が歌われました。その後音楽監督のポストに就いたフルトヴェングラーやワルターに伝統として引き継がれ、今日に至っています。

音楽都市ライプツィヒの象徴

275年の歴史を誇るゲヴァントハウス管弦楽団は、音楽都市ライプツィヒの象徴ともいえる存在で、市民の力で創始された世界最古のオーケストラです。歴代の音楽監督(楽長)には、メンデルスゾーン、ニキシュ、フルトヴェングラー、ワルター、コンヴィチュニーなど、音楽史に名を刻んだ指揮者が名を連ね、戦後はマズアが26年間、ブロムシュテットが7年間、シャイーが11年間務め、2018年から若手の注目指揮者アンドリス・ネルソンスがこのオーケストラの伝統を引き継ぐことになりました。

名門オーケストラの証

長い歴史の中で初演された作品も多く、それはまさに名門オーケストラの証でもあります。ベートーヴェンの三重協奏曲、ピアノ協奏曲第5番、ブラームスのヴァイオリン協奏曲、ドイツ・レクイエム、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、交響曲第3番、シューマンの交響曲第1番、オラトリオ「楽園とペリ」、シューベルトの交響曲第8番、ブルックナーの交響曲第7番などが挙げられます。

ゲヴァントハウス/創始275年のメモリアルイヤーに音楽監督に就任したネルソンス

「ゲヴァントハウス」とは・・・

1781年に初代演奏会場として使用するようになった「織物の見本市会場の建物」のことです。1884年に落成した2代目のゲヴァントハウスは、第2次世界大戦時に破壊されるまで、ウィーン楽友協会ホールやアムステルダム・コンセルトヘボウ同様、音響に優れた世界屈指のコンサートホールとして知られていました。ゲヴァントハウス管弦楽団は、戦後すぐに活動を再開しましたが、3代目のゲヴァントハウスが建てられたのは35年後の1981年で、10月8日に「第九」の演奏で待望の新ホールの完成を祝いました。

クラブツーリズムでは、元祖「年末の第九」を「ゲヴァントハウス」で鑑賞するツアーをご用意しています。今年はゲヴァントハウス管弦楽団音楽監督ネルソンスが指揮台に立ちます。最高のパフォーマンスを堪能していただくために最高の席(プレミアム席)へご案内します。またツアーでは、ベルリン・フィルのジルヴェスター(大晦日)コンサートとドレスデン・ゼンパー歌劇場大晦日公演「椿姫」も鑑賞します。

【クラブツーリズム 音楽の旅】
旅の文化カレッジ講師 山本 直幸
ベルリン留学中6年間、オペラ・コンサート通いの日を送る。特にヨーロッパの歴史や音楽・美術への造詣が深く、長年音楽旅行企画に携わり、ツアーにも同行し現地で案内役も務める。海外添乗・駐在日数は4,000日以上。音楽雑誌等に音楽旅行記事を多数寄稿。

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クラブツーリズム 海外音楽鑑賞の旅「アンコール」
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