クラブツーリズム名古屋の脇海道です。
前回(クリックでページ移動)は秋の自然観察についてご紹介しました。
自然を学ぶと山での楽しみも増しますが、植物の名前を覚えるのは難しいところ。
ツアー中は、植物を教えてくれるガイドさんの口からは植物の名前がポンポン出てくると思います。
ガイドさんたちはどのように植物を覚えているのでしょうか。
今回は樹木に着目して基本的な植物の見分け方をご紹介したいと思います。

植物の名前について

そもそも植物の名前を知る意義は何でしょうか?
植物を含め、殆どの生き物には名前がつけられています。
山を見渡すと、殆どの景色は植物に覆われています。
林業用語に『適地適木』と言うものがあります。これは『適材適所』をもじったもので、その土地(気候や地質)に合った植物が育ちますよということです。

また、生物学の用語では『指標植物』と言ってその植物の生息地の環境自体を示す植物が多く存在します。つまり、その土地の環境を理解するためには植物を理解する必要があるわけです。

しかし、植物の名前がわからなくては、その植物の性質や特徴を理解することはできません。
植物の名前、性質や特徴が解ると野山に出た時の楽しみも増えてきます。
植物につけられている名前には、一般的に以下の種類があります。

①一般名
同じ植物でも方言などにより地域によって異なる名前がつけられている場合があり、これらの名称は一般名と呼ばれます。
名前がつけられるということはその土地の人に利用されるか毒になるなど何らかの点で関心があると言え、名前自体にその植物の用途を示す意味を持つことが多いです。
例:ダンゴノキ(ミズキ)⇒繭玉飾りを作るのに使われた
  カマツカ⇒鎌の柄に使われた。一部地域では牛の鼻輪に使われ、『ウシゴロシ』という名も。

②和名(標準和名)
一般的に図鑑などで採用される標準的な名です。
一般名からそのまま転じたものも多くあります。
例:スギ、クサギ 他

③学名
全世界の植物学者に通用する学術的な名称が学名です。
学名は属名・種小名・著者名(名づけた人)の順番で構成されますが、一般的な図鑑では著者名は省略される事が多いです。
また、種小名を更に細かく分類する亜種小名、変種などもありますが、少し専門的になってしまうので今回は省略します。学名を覚えなくても大丈夫ですが、学名のルールを知っていれば、その植物の分類上の立ち位置がわかりやすくなります。
例:マツ科マツ属の常緑針葉樹『アカマツ』の学名『Pinus densiflora』は下記のようになります

Pinusは『山』を意味するケルト語のpinという単語が由来となり、densifloraはラテン語で『花の密集するもの』という意味です。著者名は名前をつけた人の名前です。
学名はその植物の特徴や産地などを表しています。

野外観察のコツ

いざ意気込んで覚えよう!とただただ図鑑を眺めていても、よく解らず挫折してしまうことが多くあります。しかし、身の周りで多く目にする樹木は、近くまで寄らなくても全体の雰囲気でなんとなくスギだイチョウだと言い当てる事ができますね。植物全体の雰囲気を五感を使って感じる事が重要です。

①樹木の全体像を見る
高さや樹形、葉の形や模様などさまざまな要素が組み合わさって、その植物の個性になっています。全体をみて、雰囲気を感じましょう。

②五感で楽しむ
葉っぱや木の幹の手触りや棘があるか実はどんな味がするか等々、実際に触れたり味わったりした植物は記憶に残りやすくなります。
※有毒植物も多いのでむやみに口にしないようにしましょう。

植物の同定

植物に関わらず、生物の種類を見分ける事を『同定(どうてい)』と言います。
樹木では花、実、葉っぱ、冬芽、樹皮、樹形などの外観情報を元に同定するのが基本となりますが、花や実は短い季節でしか見る事はできませんし、樹皮や樹形は生育環境や生育状況によって大きく姿を変えます。

下の画像はどちらも富士山のカラマツです(カラマツ以外も混ざってますが)。
森林限界付近のカラマツは這うように生長し、麓近くのカラマツとは全く異なる樹形です。

そこでオススメなのが、葉で見分ける方法です。
葉は比較的長い期間目にする事ができるので、植物を見分ける大きなヒントになります。
落葉樹が葉を落とすこれからの冬の時期は、枝先の冬芽で見分ける方法が一般的です。
冬芽の見分け方はまた今度お話するとして、今回は葉っぱでの見分け方をご紹介したいと思います。

葉っぱで樹木を見分けよう

前置きが長くなってしまいましたが、実際に葉っぱをみて樹木を見分ける手順を解説します。
大きな分類項目から順番に絞っていき、大体の種類を分類するのです。
ここではじめて図鑑を広げ、種類を同定します。

ステップ①
広葉樹なのか、針葉樹なのかを見分けます。
広葉樹はいわゆる葉っぱの形。針葉樹は名前の通り針のような葉っぱ。マツやヒノキなどが代表的な針葉樹ですね。
広葉樹は秋に葉を落とす落葉広葉樹と冬でも葉をつける常緑広葉樹に分かれます。
常緑広葉樹は一般的には葉が厚く、色も濃い緑色をしています。また、葉の表面にはクチクラと呼ばれる葉を寒さなどから守る蝋状物質が多くあり、光沢感があります。
落葉広葉樹はサクラやカエデなど、常緑広葉樹はツバキやミカン、アカガシなどをよく目にするかと思います。

ステップ②
木の分類を分けたら、今度は葉っぱの形を見てみましょう。
「1枚の葉っぱ」と言われたら普通は下画像でいうと一番左の様な葉っぱをイメージするのではないでしょうか。このような葉っぱを「単葉」と呼びます。
しかし、実際は一枚の葉っぱと定義される範囲はバラバラで、樹木によっては一枚の葉っぱが「小葉」という複数の葉っぱに分かれています。これらを合わせて「複葉」と呼びます。
小葉のつき方や、カエデのような単葉でも分裂しているものなど様々な形があり、それぞれ名前がつけられているのです。

ステップ③
更に細かくみてみましょう。葉のつき方(葉序)や葉の縁取り(葉縁)がどうなっているのかも大きなポイントとなります。
・葉序
葉が交互についた「互生」、一対ずつまとまった「対生」などがあります。
・葉縁
滑らかなふちの「全縁」、ノコギリのようになった「鋸歯縁」など
ブナのように葉縁が波打ったりするのも注目すべき特徴の一つです。

少し見にくいですが、下の2種類の植物をご覧ください。
両方ともどうやら常緑広葉樹のようですが、そっくりです。
これを上記のポイントから見てみるとどうでしょうか。
・葉の形
どちらもどうやら不分裂の単葉でしょうか。
・葉序
右は対生で左は互生だとわかります。
・葉縁
左は葉縁がギザギザ。右は全縁
これらの違いをもとに、右がモクセイ科の「ネズミモチ」左がツバキ科の「ヤブツバキ」と見分ける事ができるのです。

上記の特徴を見分けるのが基本となりますが、植物の種類は沢山あり、また環境や地域によっても大きく形が異なることもしばしば。
覚える事は沢山ありますが肩の力を抜いて楽しみながら、少しずつ覚えていけば良いと思います。
今回は葉っぱでの同定方法をご紹介いたしましたが、これから寒くなってくると残念ながら落葉広葉樹の葉っぱは全て落ちてしまいます。
次回は冬ならではの「冬芽」から植物を見分ける方法をご紹介したいと思います。

自然観察のツアーに興味をお持ちの方は、下記リンク「山の自然教室」をご参照ください。

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