旅の文化研究所研究員、一般社団法人日本旅行作家協会会員の黒田尚嗣(くろだなおつぐ)が「歴旅の演出家、旅する世界遺産の語り部」として、「巡礼」について熱く語ります。

黒田尚嗣(くろだなおつぐ)
慶應義塾大学経済学部卒。現在、クラブツーリズム㈱テーマ旅行部顧問として旅の文化カレッジ「世界遺産講座」を担当し、テーマ旅行の企画をしながら「歴旅の演出家、旅する世界遺産の語り部」として旅について熱く語る。近畿日本ツーリスト時代より海外旅行の企画に携わり、世界各地の文化遺産や自然遺産を多数訪れている。旅の文化研究所研究員、一般社団法人日本旅行作家協会会員

「巡礼」という言葉の意味

「巡礼」といえばイスラム教徒のメッカへの巡礼(ハッジ)やキリスト教徒が目指すエルサレムサンチャゴ・デ・コンポステーラなどへの巡礼を思い浮かべますが、これらはともに居住地と遠方にある聖地の間を移動する旅です。

エルサレム 旧市街(イメージ)

サンチャゴ・デ・コンポステーラ(イメージ)

すなわち「巡礼」という言葉が本来「通過者」とか「異邦人」を意味するように、赴く聖地は居住地の近くのモスクや教会ではなく、遠方にある非日常の聖域であり、そこで聖なるものに触れた後、また日常空間に戻る行為が巡礼です。

数ある巡礼の中でもイスラムの巡礼は、他の宗教のそれと比べて時の規則(イスラム暦の12月8日目から10日目までに行う)もあり、メッカという遠い聖地で「巡(順)」に「礼」をして回る文字通りの「巡礼」を3日間行う非日常的な儀礼です。

「巡礼」と「巡拝」

それに対して日本の巡礼は「巡拝」にも似ており、伊勢参宮や西国33か所、四国88か所遍路など、聖地や霊場を順に参拝して信仰を深め、心身の蘇りや新生の御利益を得るための行為で、往路は修行的な意味があっても復路は慰安や観光の旅に移行する場合が多く

「伊勢参り、大神宮にもちょいと寄り」と川柳の一節にも紹介されています。

伊勢神宮 内宮 宇治橋鳥居(イメージ)

お遍路さん(イメージ)

この違いはイスラム教やキリスト教が一神教であるが故に聖地と居所とを直線的に移動するのに対して、日本は森羅万象に神の発現を認め、複数の神仏を信仰するが故に遍路のような周回や伊勢参宮での寄り道が可能とされたのではないでしょうか。

ただ、弘法大師の四国遍路は、本来、僧侶の修行の場であり、庶民の生活にゆとりができた17世紀以降になって、伊勢参宮同様に庶民が旅に出る方便になったものです。

神仏への祈願の原点は「おかげ参り」

しかし、日本人の神仏への祈願は「日ごろの無沙汰や感謝が第一」であり、お願い事を優先するものではなく、何事もなく平安に過ごせたことに対しての「おかげ参り」でした。

お参り(イメージ)

すなわち、「お参り」とは神様の前で自分自身と向かい合う行為であり、神社は、そこで自分の立ち位置を確認した上で、神様に覚悟を伝える神聖な場所なのです。

しかし、その神聖な場所の近くにも普通に暮らす日常生活空間があり、そこを通過することで異邦人である旅人が思いがけない出会いや感動を体験する、これも「お参り」の旅の醍醐味です。

おかげ横丁(イメージ)

伊勢の赤福の『赤心慶福』なる理念は、公的な福祉を受けられなかった庶民を巡礼地において「おもてなし」の心(赤心)で寛容に受け入れ、巡礼者の幸せ(福)を喜ぶ(慶)ことから来ています。

実際、聖地の近くにも普通に暮らす日常生活空間があり、そこを通過することで異邦人である旅人が思いがけない出会いや感動を体験する、これこそが巡礼の旅の醍醐味です。

エルサレム旧市街で売られている色とりどりの雑貨やお土産(イメージ)

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