みなさんこんにちは。山ガールになりたい女子・齋藤です。
2014年9月27日、木曽御嶽山の噴火を覚えていらっしゃいますか?
噴火当時の山頂から生還され、現在も中央・南アルプスの山を中心に登山ガイドをされている小川さゆりさんにインタビューさせて頂きました。
ご本人の著書『御嶽山噴火 生還者の証言』(山と渓谷社出版)を読まれた方はご存知かと思いますが、噴火当時に壮絶な体験をされています。
「御嶽山噴火を風化させたくない」
我々登山者、一人一人の心構えはどうするべきか。
山、自然、登山を愛する全ての皆様に、今一度考えて頂きたい内容です。

木曽御嶽山(イメージ)

今回は、以前に登山ツアーのガイドと添乗員という立場で小川ガイドとコンビを組んだことのある鷲尾さんと一緒に、小川ガイドの地元・長野県駒ヶ根市にお邪魔しました。

★小川さゆりガイド★
駒ヶ根市を拠点に、地元の中央アルプスを中心に北アルプスなど幅広い山域で活躍されている登山ガイド。
御嶽山噴火当日は、ツアーの引率ではなく下見のために単独で御嶽山を訪れていて、噴火に遭遇されました。

約5年ぶりに入山規制が緩和される御嶽山山頂について

齋藤:まず、今年から入山規制が緩和される事について、小川さんはどのように捉えていらっしゃいますか?

小川:そうですね、昨年の秋、噴火以降13日間だけ山頂の剣ヶ峰が登山可能となりました。その時に私も3回登ったんですけど、とんでもない数の人が登っていました。
13日間だけだったので、台風などの影響で登れる日も限られていたんですけど、最終日は体育の日で晴天ということもあり、すごい人の数だったんですね。

齋藤:とんでもない数、というのは・・・ピーク時の富士山のようなイメージでしょうか?

小川:ほんとそんなかんじです。

齋藤:えー!!

インタビュー風景(写真左が小川さゆりさんです)

小川:約4年ぶりに剣ヶ峰が規制解除された理由として挙げられるのは、噴火警戒レベルが1ということと、登山道が整備され剣ヶ峰直下にシェルターが3つ設置されたということで、「安全が確保された」ということでした。しかし噴火した日と何も変わらないんですね。
噴火した日も「警戒レベル1」でした。ですが御嶽山は突然噴火しました。
噴火当日も山頂には山小屋があって、そこがシェルターの役目をしていたので。
それって、変わらないじゃないですか。なんて言うんでしょう、シェルターができ安心にはなっても安全ではありません。「安心と安全」は違います。シェルターは3基、収容人数90人です。
「安心だ」と思って物凄い数の登山者が来ていて、「もし仮に今ここで噴火したら、どのくらいの人が命を守れるのかな・・・」そんなことを考えました。

齋藤:なるほど・・・。
小川さん自身は「安心で安全な登山を広めたい」という想いで現在もガイドをされているのでしょうか?

小川:そうですね。自然相手に安心というのは言い切れませんが、安全登山は広めたいと思っています。ガイドであれば直接お客様と現場(山)にいて伝えることが出来るじゃないですか。
その方がこちらも伝えやすいし、一番伝えなきゃいけない人達だと思うので。
やっぱり机上でいくら危険性を言っても、例えば「雨が降ったら寒い」とか言っても、分からないじゃないですか。
だけど本当に山で雨が降って風が吹いて寒さを体感した方が、伝えやすいし。
1つの登山パーティで、同じ状況下の中で異常に寒い人って、やっぱり装備が悪いんですよ。
「雨に濡れて寒い」とか、やっぱりいくら机上で説いても説得力が無いんですよね。

齋藤:個人差もありますけど、実際に体験しないと分からなかったり気づかない事ってありますもんね。

小川:そういうのをやっぱり、伝えていかないと伝わらないし・・・やっぱり諦めずにコツコツ伝えていけば、伝わる方もいるかな、と。

齋藤:今はその想いで登山ガイドを続けていらっしゃるんですね。

小川:私、御嶽山が噴火した日、下山している時に「私もう二度と御嶽山に来ることはないだろうな」と思っていたんです。
噴火に遭って1時間前死にそうになってたし。
ただ「自分の居た所だけは絶対に見に来よう」と思ってましたけど、人を連れて行くとか、そういうのは私の中では無いな、と思って下りていたんですね。
突然の噴火の中自分の命を守るのに精一杯で、この日は単独だったけど、もしガイドで行っていたら「お客様の命を守ることはできなかった」そう痛感したので。
だけど時間が経つと、自分の中だけで決着をつけるのではなくて、やっぱり「あった事をきっちり伝えなきゃいけない」と思うようになりました。御嶽山に登れるのなら、ガイドしてそこでお客様に感じてもらいたいなと。
色んな感情もあるんですけど、起きた事は真実としてあるわけで、そういうのはやっぱりその場にいた人が伝えなければいけない。
たまたまその時その場にいた登山ガイドが私しかいなかったので、一人だと出来る事は限られているとは思うんですけど。

齋藤:小川さんの著書を読んでいた中で、第1章(噴火当時の約1時間の場面)の小川さんの気持ちの変化、「人間って境地に至るとこんなに色んな思考や感情が目まぐるしく変わるのか」と思って・・・なんというか、、その時を思い出す事は辛くはないですか?

小川:辛くは無いですね。
やっぱりこう・・・あり得ない世界だったので。
もうちょっと身近にある事、例えば雷とか落石だったら怖いんでしょうけど。
「噴火」って多分無いじゃないですか。

齋藤:無いですね。

小川:あと簡単に、「火山に登らなきゃいい」という選択肢もあるので。
だからあまり(真実を思い出す事が辛いという事は)無いですね。
なんか本当に、目の前で起こっていた事が夢みたいな、、あり得ない事だったので。

御嶽山噴火当時の写真

御嶽山噴火当時の写真

御嶽山噴火当時の写真

齋藤:小川さんの著書の中で、活字で読んでいて気になったのが、近くを飛んで来る噴石などの「とんでもない音」。
たしかに擬音では書いてあるんですけど、「とんでもない音」って、どういう音なんでしょう?

小川:落石とかって聴いたことあります?
なんて言ったらいいんでしょうね。「ヒューン!」っていう。

鷲尾:ロッククライミングをしている時に頭上から降ってくる落石の風切音みたいな。

小川:なんか飛んで行って「今の何だ?岩だ・・・」みたいな。

齋藤:それが時速200~300kmでビュンビュン飛んで来るんですもんね・・・

小川:リスクが多い高所や壁にチャレンジされる方の緊張感とは、違った生死の覚悟ですよね。
まさか登山道も整備され登り易い山として人気のあった御嶽山で噴火に遭い死を覚悟するとは思ってもみなかったです。
でも山の高さや難易度に関係なく、自然に100%の安全はないなと実感しました。

齋藤:小川さんの著書を読んでいた中で、『「今できること」、「できないこと」、「するべきこと」、「するべきではないこと」、そして何より「しないこと」が明確になった』とありましたが、その思考回路に切り替わったのは、今までご自身で経験されて学ばれた知識があるから、取捨択一の思考回路に瞬時に切り替わったのでしょうか?

小川:そうだと思います。
「直感」って、色んな事の積み重ねがあっての「直感」じゃないですか。
普通だったら30秒かけて筋書きを立てなければ出てこない事を、一瞬で出てくるって、それがやっぱり「直感」だと思うんですけど。
緊急を迫られた時、ある程度バックボーンが無かったら出てこないので。
それが私ではなくて、ヒマラヤの8,000m峰や、厳しい山を登っているようなプロの登山家の方であれば、もっと違った選択をしたかもしれませんね。
自分の命を守る術についてどれだけ多く考えてきたかと、経験が「直感」となるのかなと思います。

インタビュー風景

登山者のみなさんに伝えたいこと

齋藤:小川さん自身、経験によって何かそれまでとの変化はありましたか?

小川:そうですね。
これまでも「リスクを伝えるガイドになりたい」と思ってガイドになったんですけど、自分もそこまでのリスクを感じた事は無かったので、お客様に対して言うけれど、どこか「響いてない」部分があったと思うんです。
自分自身が上っ面だけだったから響いていなかったと思います。噴火で悲しみや、苦しみ、怒り色々な感情を目の当たりにしました。「山で悲しい思いをして欲しくない」そう本気で思うようになりました。
リスクと登山者が持たなければいけない危機意識を伝えたいと思っています。

齋藤:お客様の前で実際にお話される際に、気にされているポイントなどはありますか?

小川:登山者としての心構えですかね。「自分の命を守るのは自分自身である」それを伝えたいです。
自然相手の登山に100%の安全はない中で、どれだけ安全に近づけられるのか準備は必要だと思います。
例えば、登山計画書を出すとか、事前に火山と調べておくとか。
自分で事前に調べることで回避出来る危険もあるわけですし、気象遭難など。怪我をしたり、寒い思いや痛い思いするのも自分じゃないですか。
安全登山のための準備は自分の命を守るためにするものです。

鷲尾:それは火山でなくても一緒ですよね。
低山で大怪我される方もいらっしゃいますし。

小川:装備にしても同じですよね。
低体温症にかかってしまった方が、ザックの中には防寒着がちゃんと入っていたという事がありました。装備は持っているだけでは意味がないのです。
先に話した「安心と安全」の違いでしょうか。装備は持っている事は安心ですが、使えなければ安全には繋がりません。

鷲尾:生命を守るために必要な装備・・・使うべきタイミングをきちんと見極めるのも、登山をする上で必要な心構えですよね。

小川:御嶽山噴火以前は、噴火は登山者が遭う危険としては意識されていなかったと思います。ですが100名山のうち32座は火山です。火山を登る時は「噴火」という危険を頭の片隅に置いてほしいと思います。
そうすることが万が一の事態が起きても、即座に命を守る行動に繋がると思います。火山だけではなく危険を想像出来ることが自分自身を守るにはとても必要なことではないでしょうか。

噴火は晴天、紅葉、土曜日、お昼。山頂に最も登山者が集まるタイミングで起きました。突然の噴火は多くの登山者の命を奪って行きました。山は美しくもあり、時として恐ろしくもあります。山頂周辺には噴石や破断された手すりや石像が噴火当時のまま残されています。エメラルドグリーンだった二ノ池は灰でほとんど埋まっています。しかし同時に自然は再生されています。山頂以外噴火を連想させるものはありません。御嶽山噴火をタイミングの悪い自然災害で終わりにするのではなく、御嶽山の頂きに立ち、「あの日、自分がその場にいたらどうしたかな」そんなことを少しでも考えてもらえたらと思います。

齋藤鷲尾:小川ガイド、本日は貴重なお話をありがとうございました。

火山灰に覆われてモノクロームの世界に変わった噴火直後の山頂付近

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