多くの音楽家が活躍したウィーンの支配者だったパプスブルク家の君主たちが眠る霊廟が、カプツィーナ教会の地下にあります。教会が完成した1633年に、創始者である皇帝マティアス(1619年没)とその妃アンナ(1618年没)の遺体が安置され、それ以降の皇帝12人、皇帝妃19人を含め、149人の棺が並ぶ、まさにハプスブルク家の歴史が凝縮された場所と言えるでしょう。

カプツィーナ教会の霊廟入口

霊廟の中心はマリア・テレジア

棺の中で最も大きくて目を惹くのは、マリア・テレジアと夫の皇帝フランツ1世が仲良く一緒に収められている巨大な棺です。マリア・テレジアは、女帝といわれていますが、正確には神聖ローマ帝国の帝位に就いたことはなく、ハンガリーとボヘミア(現チェコ)の女王でした。父の皇帝カール6世は、男子相続者がいなかったので、生前、帝国内の領主にテレジアに跡を継せるために根回しをしたのですが、いざ亡くなってみると、反対者が続出し、ついにオーストリア継承戦争という国際紛争にまで発展してしまいました。

結果は、帝位を他家(ヴィッテルスバッハ家)に奪われ、宿敵フリードリヒ大王のプロイセンに領土の一部も奪われてしまいました。もっとも5年後には、夫フランツを皇帝に就かせ、帝位の奪還には成功しています。マリア・テレジアは19歳の時に幼なじみのフランツと恋愛結婚し、23歳の時にハプスブルク家の家督を継いでから、国家を一人で背負っていながら、20年間に16人の子を出産しています。

マリア・テレジアとフランツ1世の巨大な棺

政略結婚の相手候補にもなっていたといわれるフリードリヒ大王は、「オーストリアはスカートしかはけない」と、マリア・テレジアとオーストリアをあなどり、継承戦争に乗じて帝国内に進軍しました。ハプスブルク家は、なかなか男子に恵まれず、テレジアも最初の3人目までは女子しか授かりませんでした。長男ヨーゼフが生まれた時には、「われわれはズボンをはいた」と、国中が歓喜に沸いたそうです。

当時、女子は政略結婚の道具として扱われていた風潮がある中、自分が愛した相手と一緒になることのできたマリア・テレジアの生涯は、多難な人生を送りながらも、幸福で恵まれていたといえるでしょう。フランツの死後、死ぬまで喪に服していたというのも有名なエピソードです。ちなみにこのハプスブルク家の霊廟で唯一の例外として、マリア・テレジアの家庭教師役で信頼の厚かったフックス伯爵夫人の棺が置かれています。

「M」が目印になるマルガリータの棺

音楽を愛した皇帝たち

ウィーンで初めてオペラが上演されたのは1625年ですが、特にバロック時代に皇帝だったフェルディナント3世(1657年没)、レオポルト1世(1705年没)、ヨーゼフ1世(1711年没)、カール6世(1740年没)の治世で宮廷音楽が栄えました。100曲以上も作曲したレオポルト1世は、最初の妃マルガリータ(1673年没、スペイン・ハプスブルク家の王フィリッペ4世の娘で、美術史美術館所蔵のヴェラスケスが描いた3枚の肖像画は有名)との結婚式典のためにオペラを作曲させた際に、自ら台本を手がけ、9時間にも及ぶオペラを上演させるほどのオペラ好きでした。

マリア・テレジアの子供でモーツァルトが活躍した時代の皇帝だった長男ヨーゼフ2世(1790年没)と三男レオポルト2世(1792年没)、末男で、ベートーヴェンがボンで仕えたケルン大司教マクシミリアン・フランツ(1801年没)の遺体も安置されています。

ヴェラスケスが描いたマルガリータの3枚の肖像画 美術史美術館所蔵

多くの音楽遺産に関わった皇帝

現在の音楽の都ウィーンの象徴的な建物である国立歌劇場や楽友協会ホール、そしてそこを拠点に活躍するウィーン・フィルなど、貴重な音楽遺産に深く関わったのが皇帝フランツ・ヨーゼフ1世(1916年没)です。生前は夫婦、親子関係が上手くいかなかったその妃エリザベート(シシィー、1898年没)と長男ルドルフ(1889年没)が、死後は3人仲良く並んで安置されています。

フランツ・ヨーゼフ1世の棺

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ウィーンの格式ある名門グランド・ホテルに5連泊、2度のウィーン・フィル演奏会と国立歌劇場のペラ公演「蝶々夫人」を鑑賞、カプツィーナ教会のハプスブルク家の霊廟へもご案内します。

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旅の文化カレッジ講師 山本 直幸
ベルリン留学中6年間、オペラ・コンサート通いの日を送る。
特にヨーロッパの歴史や音楽・美術への造詣が深く、長年音楽旅行企画に携わり、ツアーにも同行し現地で案内役も務める。海外添乗・駐在日数は4,000日以上。音楽雑誌等に音楽旅行記事を多数寄稿。

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