第4回目の船旅チャンネルでは、引き続きドナウ川クルーズをご紹介します。「母なる大河」「ヨーロッパの大動脈」とも称されるドナウ川。
後編では、「ドナウの真珠」ハンガリーの首都ブダペストを出発し、ハンガリー、セルビアから、ブルガリアとルーマニアの国境沿いを流れ、ドナウデルタから黒海に注ぐまでを辿ります。

東欧の国々を流れるドナウ川を黒海へ

前回はドイツに端を発したドナウ川が、ハンガリーの首都である美都ブダペストに辿り着くまでをご紹介しました。
詳しくはこちらをご覧ください▼

今回は、ブダペストを出発し、東欧各国の雄大な自然の中を流れ、黒海へと注ぐまでの中下流域をご案内したいと思います。
実際の乗船体験をもとに、クルーズ船からの景色や、体験談も交えてお伝えしていきます!

ドナウ川中下流域 
実際のクルーズ船では黒海河口近くのトゥルチャまで、ドナウデルタへは小さなボートに乗り換えて観光を楽しみます。
ⒸICM International Cruise Marketing Ltd

ドナウ川は、ウィーンを過ぎてスロバキアやハンガリーに入るあたりから、それまでの城や修道院などハプスブルク帝国の栄華が残る景色から一変し、異民族の薫り漂う壮大な自然風景へと移っていきます。
では、いよいよ‟ドナウの真珠”ブダペストを出発です。クルーズ船がハンガリーの大平原に入るところからご紹介していきましょう。

ハンガリーの大平原と騎馬民族の名残り

ブダペストを出発し、クルーズ船はハンガリー大平原を南へ進みます。

ヨーロッパを西から東へ流れるドナウ川ですが、ハンガリーでは南北を約270km南に進む、とても珍しい区間となっているんです。

ハンガリーは、日本の1/4ほどの面積の小さな国ですが、山地が少なくほとんどが平野です。
また、先祖はアジア系の騎馬民族と言われており、かつて大平原を舞台に、馬を走らせ牧畜を営んでいたのです。この大平原は‟荒野”を意味する『プスタ』と呼ばれています。

同じアジア系民族ということから、ハンガリー語が日本語と少し似ており、姓の後に名がくるという話を前回させていただきましたね!

クルーズ船から外を眺めると、高い建物などは全くなく、鬱蒼と木々が続いています。その奥には起伏のない平野が続いているため、河畔の木々以外はほとんど何も見えないことも・・・。
途中、ところどころ、黄色い壁にオレンジ屋根の家が見えました。

寄港地① 大平原‟プスタ”観光

ブダペストを出発し、最初の寄港地では、大平原のスケールを体感する観光です。
まず、最初に訪れるのは、ハンガリー刺繡の産地カロチャです。

ⒸGary Bembridge

農家にて刺繍の方法を見学させてもらうのですが、何よりその刺繍をしているおばさまの民族衣装がかわいい!
みんなそちらに注目してしまうのでした。

ハンガリーの刺繍ってどんなだっけ??と思う方も、写真を見ていただくと、あー、こういうの見たことあるある!と反応していただけると思います。
とにかく目にも鮮やかな花模様。他の国の刺繍とも異なる、個性的な色合いですよね。

また、カロチャ地方は、ハンガリーの国民食パプリカの産地でもあります。名物料理グヤーシュ(牛肉のパプリカ煮込み)をはじめとして様々な料理に使われます。見た目は唐辛子のようですが、ハンガリーで主に使われているのは辛くない品種です。
ハンガリーの田舎に行くと、このパプリカを軒下などに吊り下げて乾燥しているのをよく見かけますので、探してみてくださいね。

そして、大平原プスタへ。
ここでは、遊牧騎馬民族の技術を伝承した馬術ショーをご覧いただけます。道中、馬車に乗って大平原を感じる体験も!雄大な大自然を満喫できますよ。

‟サヴァ川と交わるところ”古都ベオグラード

さて、ハンガリー大平原の観光を終えて、かつてオスマントルコとの戦いが繰り広げられたモハーチからクルーズ船に乗船すれば、ドナウ川はクロアチアとセルビアの国境沿いへと入っていきます。

ハンガリーを過ぎても、しばらくは広大は平原が続きます。ところどころ沼沢や深く茂る緑が現れ、野鳥の姿も増えてきました。
やがて、ドナウ川は再び進路を東に転じていきます。

寄港地②ベオグラード観光

セルビアの首都ベオグラードは、ドナウ川がサヴァ川と合流する地点にあり、紀元前4500年くらいから人が住み始め、数多くの民族が文明を築いてきた歴史ある場所です。
コソボ紛争時のNATO空爆の印象が強い方も多いかもしれませんが、それから20年余り、街は復興し、活気づいています。中世からの建物は被害を免れ、今も残っていることも幸いしました。

ドナウ川から見たベオグラード市内

街の中心テラジェ広場から続くミハイロ通りはおしゃれな雰囲気

寄港地観光では、街の中心であるテラジェ広場や歩行者天国ミハイロ通りを散策するほか、ドナウ川とサヴァ川の素晴らしい眺望をお楽しみいただけるかつての要塞カレメグダン公園や、セルビア正教会である聖サヴァ教会などを訪れます。

想像以上におしゃれな街並みと賑わいを目にして、皆さん驚かれます。

リバークルーズの醍醐味!船ごとダムを通過

ベオグラードを出発してしばらくすると、川の片側はルーマニア領となります。この辺りで、大平原は終わり、山地に近づいていきます。ドナウ川はこの先、トランシルヴァニア・アルプス山脈を横切って流れるため、所々かなり険しい渓谷が続くのです。
これがカザン渓谷であり、その下流に作られたのが鉄門ダム(アイアン・ゲート)です。

リバークルーズでは、狭い渓谷やダムの通過を楽しみにされている方、多いです!
通常のツアーではめったに行かないクルーズならではの観光です。

上/一気に川幅も狭まり、岩山が迫る  右下/ダキア族の王、デケバルスの石像
左下/川岸に建つ教会         この地の統一を記念し、約2000年前に10年かけて作られたとのこと
                  

渓谷に入ると、川幅はどんどん狭くなり、最も狭いところでは150mほどになります。少し前まで700~800ⅿくらいあったことを考えると景色が様変わりするのも納得です。水深も50ⅿに達することもあり、かつてここはドナウ川最大の難所でした。そのため、ルーマニアとユーゴスラビア(現セルビア)が共同で鉄門ダムを建設、約250kmにわたって水位が上げられ、現在の穏やかな水流へと変わったのです。

渓谷を過ぎると、いよいよ鉄門ダムへと入ります。
ダム通過の仕組みは簡単です。ここでは、上流から下流への通過を例に上げて説明しましょう。

  1. まず船ごと大きな水の溜まったプール(閘門)へ。
  2. 徐々に水を抜くことで水位が下がり船は下降します。
  3. 下降が完了したら扉が開き、下段の川(や海)に無事、到着!

とはいえ、動かすのは大きな船。水を抜いたり注入するだけでも相当の時間がかかります。さらに船が何艘もいれば、プール(閘門)への入場待ちも発生します。
いわば船の渋滞ですね。

川のダム通過でも、早くても2、3時間、長い時は5、6時間ほどかかることもあります!

プール(閘門)に入って水位を調整している様子

通過の様子は興味深いため、デッキで見学される方も多いですが、長時間の場合や夜間になったら、客室に入ってゆっくり過ごしてくださいね。
急に窓の外が真っ暗、目の前が壁になって驚くこともありますが、それも船が閘門に入っている貴重な体験です!

鉄門ダムを通過すると、川幅は再び広がり、両岸も次第になだらかになります。
背の低い家がまばらに点在する様子も見えるようになってきました。

ブルガリア版京都?ドナウ川支流に広がる美しい街へ

ダキアの平原がはじまり、右岸(南側)はセルビアからブルガリアへと移ります。
ここから河口近くまで、ドナウ川はルーマニアとブルガリアの国境沿いを流れていきます。

途中、ブルガリアのヴィディンなど河岸の町を通過しますが、概して町や村も少なく、広漠な平野が続きます。所々に沼や湖が現れますが、なんとも荒涼とした雰囲気です。
川幅もぐっと広がり、2kmを超えるところも。いよいよ下流域までやってきたのだと感慨に浸りはじめるのもこの辺りからです。

宮本輝さんの「ドナウの旅人」を読んで、この地に憧れを抱く方もいるのではないでしょうか。
実は私もその一人、ただ本の中の東欧世界は決して行くことなどない異国の果て、というイメージでしたが…時代もだいぶ変わったと感じます!

さて、ここからは河岸を少し離れて、ブルガリアの古都ヴェリコ・タルノヴォへとご案内しましょう。

寄港地③ヴェリコ・タルノヴォ観光

最寄りのドナウ河岸の町から車でおよそ1時間30分。ドナウ川の支流ヤントラ川沿いに広がるのが古都ヴェリコ・タルノヴォです。観光地としても人気で、さながら日本の京都のような街です。

蛇行して流れる川と3つの丘が織りなす風景が美しいこの街は、ブルガリア帝国時代(12~14世紀)の帝都として栄えました。
ツァレヴェッツの丘には大主教区教会が建っており、教会前からは旧市街の美しい景色を望むことができます。
また、旧市街にあるサモヴォドスカタ・チャルシャは古くから続く職人街ですが、金銀細工や陶器、革製品、織物、木彫りなどのお店が並んでいます。ブルガリアのお土産をここで探すのも楽しいです。

ツァレヴェッツの丘。丘の上には大主教区教会がそびえる。

ツァレヴェッツの丘から望む街の様子
ⒸTourist information center of Veliko Tarnovo

数百年続く職人街には、陶器や織物の店も多い。お土産探しにもぴったり ⒸDonald Judge

ⒸAdam Jones

ヴェリコ・タルノヴォと言えば・・・をご紹介

◆猫が楽しく暮らす街。
街のいたるところに、猫たちの姿を見かけることができる、猫好きにはたまらない街です。

◆元大関、琴欧州のふるさと。
琴欧州の活躍により、日本でもブルガリアに注目が集まりました。

そして、約500km続いたブルガリアとルーマニアの国境沿いルートに別れを告げ、いよいよドナウ川はルーマニアとウクライナの国境近くの河口に向けて北上していきます。

黒海へと注ぐドナウデルタ

ルーマニアに入ったドナウ川はさらに川幅を広げ、穀物畑の広がる平原を過ぎると、あたりは支流の川や湖、沼地が広がっていきます。
クルーズ船は、ドナウデルタの起点トゥルチャや、ドナウ川と運河で繋がる港町コンスタンツァなどが終着地となりますが、小型船に乗り換えてのドナウデルタ・ボートサファリを楽しむことができます。

寄港地④ドナウデルタのボートサファリ観光

小型ボートに乗り換え、いざドナウデルタへ。
貴重な水鳥や魚が生息することでユネスコ世界遺産に登録されているドナウデルタには、無数の分流や水路、沼や湿地帯が広がっており、大きさは東京都の約2倍にも及びます。
両側を葦に覆われた水路を進みながら、野鳥の姿などをご覧いただけます。

ボートクルーズの様子 ⒸLüftner

たくさんのペリカンが見られることも

AMADEUS ship in the Danube Delta

youtu.be

「黒海は本当に黒いのか?」
そんな疑問を抱く方も多いと思います。実際、ドナウ川中下流域クルーズに乗船される方にとっては、「それを確かめるのもひとつの目的」などとおっしゃる方も珍しくありません。

そもそも黒海の名前の由来は諸説あり、はっきりわかっていません。
黒海の海水には硫化鉄が多く含まれているからとか、かつて暮らした遊牧民族が‟暗い海”と呼んでいたから…などなど。

実際には、季節や天候によって、また人それぞれの見え方があります。
ここで「本当に黒かった」「いや、思っていたより全然黒くなかった」と感想をお伝えするのは控えようと思います。ぜひ実際に訪れて、遥か黒海まで到達した感動とともにご覧ください。

<おまけ>寄港地⑤ブカレスト観光

ドナウ河岸から車で約1時間30分ほど離れますが、ルーマニアの首都ブカレスト観光には、クルーズ途中に案内するケースが多くみられます。少しご紹介しましょう。

かつて‟東欧の小パリ”と称されるほど美しかったブカレストは、第二次世界大戦後に現れた共産党政権により、街が一変。多くの歴史的建造物や旧市街は破壊されてしまいました。
しかし現在では、弾圧を生き延びた歴史スポットや、革命後の新しい名所が混在しています。

‟国民の館”とも呼ばれる議事堂宮殿 独裁者チャウシェスク大統領が巨額を投じて建てた ⒸMarco Fieber

‟東欧の小パリ”の雰囲気を残す旧市街 
Ⓒdamian entwistle

ドナウ中下流域を旅するクルーズ、いかがでしたか?
雄大な大自然と、進化を続ける東欧の街々の魅力が少しでも伝われば幸いです。

ドナウ川クルーズは船会社・航路ともに多数ありますが、以前に弊社でご案内した航路も含め、今回ご紹介した寄港地はもれなく含まれている場合がほとんどです。是非、参考になさってください!

陸路を飛行機やバス、列車を使いながら巡るツアーと比べ、連泊が続き、かつ寄港地観光も体調や気分次第で参加を選べることから、特にシニア世代に人気のクルーズ。言い換えると、既に各地の旅行を経験した旅の上級者が多いことも特徴です。

さらに、今回ご紹介したドナウ川中下流域のクルーズは、東欧・バルカン諸国を巡ることから、特に海外全般およびヨーロッパ旅行のリピーターの方々の参加が多い印象です。

必ずしも各国の有名な観光地ばかりではなく、現地の生活・文化により近い姿を見聞することができるのも魅力のようです。
そういった旅をお探しの方に、ぜひ体験していただきたいクルーズです!

さて次回の船旅チャンネルは、2月25日頃を予定しています。第2回のブログ内で実施した船旅に関するアンケートの解説フランス・ボルドークルーズをご紹介します。
こちらもお楽しみに!

お問い合わせ先 クルーズワールド旅行センター

【TEL】03-4335-6262(外国船)/03-5323-5222(日本船)
【メール】cruise@club-tourism.co.jp
【住所】〒160-8308 東京都新宿区西新宿6-3-1新宿アイランドウイング
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