今回は、ツアー紹介第2弾となります。
ぜひ、前回の記事と併せてご覧いただけたらと思います。
音楽都市ベルリンとウィーン
<音楽鑑賞の旅>で最も頻繁にご案内している都市はベルリンとウィーン。
ベルリンとウィーンを音楽都市と呼ぶ理由は、音楽界の最高峰ベルリン・フィルとウィーン・フィルの存在だけでなく、街全体が音楽で活気に満ち溢れ、シーズン中ならいつ訪れても高水準の音楽が楽しめるからなのです。
一方ウィーンは「ウィーン・フィル」「ウィーン交響楽団」「ウィーン放送交響楽団」「ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団(2015~25年、佐渡裕が首席指揮者を務めた)」「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」などがあり、常設のレパートリー歌劇場では、国立歌劇場とフォルクス・オーパー、非レパートリーのアン・デア・ウィーン劇場があります。
5月には「ウィーン芸術週間」という音楽祭で賑わいをみせます
2都市の違い
では、2都市の違いはどこから生まれたのでしょう?
それは、支配していた君主の違いに他ならないのです。
ベルリン(ポツダム)に宮廷を構えていたのは、軍事大国として後のプロイセン王国、そして統一国家「ドイツ帝国」に発展させたホーエンツォルレルン家です。「戦うことで領土を広げる」政策を遂行し、権力を掌握したプロイセンの君主にとっては、楽士を雇うより兵士を雇った方がいいということだったのでしょう。
但し、プロイセンの君主たちの中でも例外はいました。フルートの名手と讃えられた音楽好きのフリードリヒ大王(在位1740年~86年)です。彼は立派な宮廷楽団をもっていただけでなく、現在の国立歌劇場の前身である宮廷歌劇場を建て、本格的なオペラの上演も実現させ、自らフルート曲など120もの作品を作曲したほどです。
大バッハの次男であるC.P.E.バッハは、この君主に27年間、チェンバロ奏者として仕え、大バッハもポツダムのサンスーシ宮殿に招かれ、御前で披露した即興演奏を元に、後に「音楽の捧げもの」を作曲して献呈しています。
残念ながら、ベルリンで音楽家にまつわる話ができるといったらこれくらいで、そもそもベルリンで作曲活動をした音楽家が存在しないのです。
ハプスブルク家支配のウィーン
ウィーンに宮廷を構えていたハプスブルク家といえば、文化・芸術・学問を奨励してきた長い歴史があり、特に音楽を好み、音楽面で宮廷を開花させた君主が何人もいます。
スイスにそのルーツがあったハプスブルク家は、14世紀にオーストリアに拠点を移した後、ルドルフ4世がシュテファン大聖堂の建築やドイツ語圏最古のウィーン大学の創立を命じ、ハプスブルク家支配のウィーンの基礎を築きました。
15世紀に皇帝となったフリードリヒ3世は、有能で「中世最後の騎士」と呼ばれるほど勇猛果敢な嫡子、マクシミリアンを、当時最も広い領地(オランダ・ベルギーから北イタリア一帯)を支配していたブルゴーニュ公の一人娘マリアと結婚させ、その領地を手中に収めることに成功します。プロイセンとは違って「戦わずして領土を広げる」というハプスブルク家の結婚政策の始まりでした。
そして、マクシミリアン1世がその政策をさらに発展させ、スペイン王家とハンガリー王家との二重結婚を成し遂げ、結局孫のカールがポルトガルやアメリカ新大陸を支配していたスペインを、フェルディナントがボヘミアを支配していたハンガリーを継承することになるのです。
ハプスブルク家は、16世紀に「日の没することのない大帝国」とまでいわれる全盛期を迎えます。その後スペイン・ハプスブルク家は200年で終焉を迎えますが、オーストリア・ハプスブルク家は1918年までウィーンを拠点に君臨し続けました。
ちなみにマクシミリアンは、1498年にウィーン少年合唱団とウィーン宮廷楽団を創始しました。
後者はウィーン・フィルのメンバーで構成されるようになり、ウィーン少年合唱団のミサとして知られる王宮礼拝堂のミサの演奏も担当しています。
偶然ではなく必然
ハプスブルク家が実際に音楽に深く関わるのはバロック時代です。
ウィーンでは、1625年にフェルディナント2世の誕生日を祝してアルプス以北で初めてオペラが上演されています。フリードリヒ大王と同じように100曲以上も作曲した音楽好きの皇帝レオポルト1世(在位1658年~1705年)は、マルガリータ(ヴェラスケスの描いた絵が有名)との結婚式典のためにオペラを作曲させた際に、自ら台本を手がけ、9時間にも及ぶオペラを上演させるほどのオペラ好きでした。
モーツァルトの時代と重なるマリア・テレジアは、オペラの改革者といわれたグルックを、その息子ヨーゼフ2世は、サリエリを宮廷楽長に迎え、ウィーンでオペラ文化を定着させました。
こうして数多くの音楽家が育ち、活躍できる風土、環境が生まれたのです。バロック後の古典派音楽はまさにウィーンが中心的な役割を果たしたことは言うまでもありません。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、そしてロマン派音楽へ移行して、シューベルト、ブラームス、ブルックナー、マーラーなどがウィーンで活動できたのは、偶然ではなく、必然だったのです。
1918年にハプスブルク帝国の崩壊後、それまでウィーンを拠点にしていた新ウィーン楽派のシェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンなどが、ウィーンから離れてしまったのも、やはり偶然ではないでしょう。帝国の崩壊と同時に、音楽家の活躍の場が失われてしまったのです。
パトロンとしては申し分のない存在だったザルツブルク大司教と決別しなければいけなかったモーツァルトが、フリーランスの作曲家として自立できたのも、ハプスブルク家の宮廷があったウィーンだからこそです。
また、同じ大司教でもベートーヴェンのパトロンだったケルン大司教は、マリア・テレジアの末息子マクシミリアン・フランツでしたが、ハプスブルク家の存在なくしてベートーヴェンの偉業もなかったことでしょう。
モーツァルト最期の家(提供/山本直幸)
ベートーヴェン最期の家(提供/山本直幸)
ハプスブルク家の遺産
世界中から多くの観光客が訪れるようになったウィーンは、「ハプスブルク家の遺産で喰っている」と揶揄されることがあります。世界遺産に登録されているハプスブルク家の栄華の象徴、シェーンブルン宮殿は、年間150万人も訪れる(庭園と動物園訪問者を含むと500万人以上)、まさに観光立国オーストリアの重要な観光資源になっています。
やはり世界遺産に登録されているリング通り周辺の歴史地区には、ハプスブルク家の遺産といえる数々の歴史的建造物の他、膨大なコレクションを誇る美術館や博物館があります。そして音楽関連施設もその多くはハプスブルク家の遺産なのです。
現在のウィーンの中心は、在位68年と長かった皇帝フラン・ヨーゼフの治世に様変わりしました。大規模な都市改造計画により、19世紀半ば以降市囲壁を壊し、堀を埋めてつくられた内環状道路「リンク通り」沿いに次々に新しい建物が建てられましたが、音楽都市ウィーンの象徴である国立歌劇場と楽友協会ホールの建設もその計画の一環でした。
1869年5月にモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」で国立歌劇場(当時は帝立歌劇場)が、1870年1月にベートーヴェンの「エグモント序曲」と「交響曲第5番」で楽友協会ホールがオープンしています。
さらに、第2のコンサートホールとしてコンツェルトハウスが、第2の歌劇場としてフォルクス・オーパーがフラン・ヨーゼフの治世に建てられました。勿論ハプスブルク家の遺産は、こうした建物だけではありません。例えばウィーン・フィルは、帝立歌劇場の演奏を担当していた楽団員が、1842年に設立した自主経営団体で、現在も国立歌劇場の楽団員によって構成され、楽友協会ホールを拠点に演奏会を催しています。つまりウィーン・フィルもハプスブルク家の遺産の一つなのです。
この秋にはベルリン・フィルとウィーン・フィルが来日し、日本にいながら素晴らしい演奏を聴くことができます。しかし2つの魅力的な音楽都市を訪れると、全く違った音楽体験ができます。
拠点のフィルハーモニーで聴くベルリン・フィル、楽友協会ホールで聴くウィーン・フィルの演奏は、様々な点で明らかに違いますし、好きな作曲家が活躍した風土に直接触れることは、自らの感性を磨くことにもなります。
この秋は来日公演を先取りし、2都市を訪れて名演奏を堪能してみてはいかがでしょうか。
ベルリン・フィルハーモニー・ホール(提供/山本直幸)
楽友協会ホール(提供/山本直幸)
同行講師のご紹介
講師:山本 直幸氏
ベルリン留学中6年間、オペラ・コンサート通いの日を送る。
特にヨーロッパの歴史や音楽・美術への造詣が深く、長年音楽旅行企画に携わり、ツアーにも同行し現地で案内役も務める。海外添乗・駐在日数は4,000日以上。音楽雑誌等に音楽旅行記事を多数寄稿。
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