旅の文化研究所研究員、一般社団法人日本旅行作家協会会員の黒田尚嗣(くろだなおつぐ)が「歴旅の演出家、旅する世界遺産の語り部」として「日本遺産をめぐる旅」について熱く語ります。

黒田尚嗣(くろだなおつぐ)
慶應義塾大学経済学部卒。現在、クラブツーリズム㈱テーマ旅行部顧問として旅の文化カレッジ「世界遺産講座」を担当し、テーマ旅行の企画をしながら「歴旅の演出家、旅する世界遺産の語り部」として旅について熱く語る。近畿日本ツーリスト時代より海外旅行の企画に携わり、世界各地の文化遺産や自然遺産を多数訪れている。旅の文化研究所研究員、一般社団法人日本旅行作家協会会員

~~「日本遺産」を楽しむコツをご紹介!~~

日本遺産「耶馬渓」と命名者の頼山陽

先日、わが母校の創立者、福澤諭吉先生の出身地である大分県中津に行ってきました。

福沢諭吉像 中津駅前(イメージ)

中津市と玖珠町にまたがる景勝地の歴史や文化を語る
「やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく~」
というストーリーが日本遺産として認定されました。

そして2019年は頼山陽が「耶馬渓」と命名してからちょうど200年にあたる記念すべき年なのです。

大分県中津市裏耶馬渓(イメージ)

「やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく~」

日本遺産のストーリー 〔大分県中津市・玖珠町〕

耶馬渓とは、川が溶岩台地を浸食した奇岩の渓谷で、石柱の断崖、岩窟、滝、巨石が大パノラマをつくっています。

その深く神秘な地形は伝説と祈りの場所となり、山水画のような風景は文人画人憧れの地でもありました。

1000年以上の昔から、人々は岩から仏、石橋、洞門、庭園と、優れた作品を生み出し、広大な大地に配しては回遊路でつないでいき、大正時代ついに一本の絵巻物のようにまとめあげました。

次々と場面が展開する「耶馬渓」という山水絵巻に入り込み、空から、谷底から、遊覧の旅をお楽しみください。

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耶馬渓生誕200年に頼山陽の足跡を尋ねる

日本遺産の調査を兼ねて「耶馬渓」誕生200年祭の「頼山陽フォーラム」に参加すべく、大分県中津に行ってきました。

2019年は頼山陽が、「耶馬渓」という名前を全国に紹介した「耶馬渓誕生200年」という節目の年です。

頼山陽は江戸時代後期の儒学者、歴史家、漢詩人そして画家でもあり、『日本外史』などの著作で知られていますが、1818年に当時外国との国交が盛んであった長崎を目指して旅立ち、下関、博多、佐賀、長崎、熊本、鹿児島そして大分と旅しています。

大分県中津市深耶馬渓(イメージ)

頼山陽先生の足跡を尋ねる

頼山陽先生は天領にある日田咸宜園の廣瀬淡窓と親交を深めた後、日田から豊前へ向かう途上、山国川沿いの山水画の風景に驚嘆しながら中津に入り、友人である中津鶴居村の「正行寺」の雲華上人と歓談して山国谷の岩峰をしきりに讃えたそうです。

そこで雲華上人はそれならば世に聞こえた羅漢寺仙巖山を見ればさぞかし驚くだろうと、翌日、頼山陽を羅漢寺、仙巌山へ案内したところ、羅漢寺は人工的で仙巌山も水がないと頼山陽はさほど感動しなかったと伝わっています。

しかし、頼山陽先生は「山は水を得ざれば生動せず、石は樹を得ざれば蒼潤ならず」と、帰路につく前に再度山国川の柿坂を訪ね、酒を飲みながら滝のかかる岩峰を眺めて画に描こうとしましたが、見事な景観に自分の筆では描けないと投(擲)げてしまったのです。

この逸話から命名された岩峰が有名な「 擲筆峰(てきひっぽう)」と呼ばれる名所です。

頼山陽先生はこの後、広島へ帰る船中から遠ざかっていく豊後の風景を惜しみ、その景観を「耶馬渓」と命名、帰宅後、水墨画に描写し、漢詩文を添えて『耶馬渓図巻記』として発表、天下に「耶馬渓」の名前を紹介したのです。

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日本遺産ストーリーと主な見どころ

日本遺産登録されたストーリーが「やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく~」となっていたので、私は天領の日田から頼山陽先生と同じように山国川沿いを車で走らせました。

まだ、紅葉には少し早かったのですが、頼山陽先生が歩いたであろう石坂道奥耶馬渓、裏耶馬渓、テーブルマウンテンに囲まれた玖珠の城下町、神秘の谷の深耶馬渓など、見どころはいっぱいありました。

そのため、頼山陽のようにじっくり眺めている余裕はありませんでしたが、わが母校の福沢諭吉先生が土地を買い、開発から守った競秀峰禅海和尚が30年かけて掘った日本初の有料道路「青の洞門」は時間をとって散策しました。

大分県中津市本耶馬渓 青の同門(イメージ)

頼山陽先生の「旅の信条」

頼山陽先生は

「社会は活きた学校で、旅は活きた学問の場所である。人は旅によって多くの興味を感じ、詩や画を描き、自己の価値を高めていく」

という信条を持って多くの旅をしたそうです。

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私は詩や画は描きませんが、頼山陽先生の信条をまねて自己の価値を高めると同時に旅の感動を手記として残すべく努力しています。

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