カラヤンの遺産、故郷ザルツブルクへ

夏のザルツブルクは、世界中から音楽ファンが集まる「音楽の都」として華やかな賑わいを見せます。しかし、ザルツブルクの音楽祭文化は夏だけのものではありません。

冬にはモーツァルトの生誕を祝う「モーツァルト週間」、そして春には「イースター音楽祭」が開催されます。こうした一年を通じた音楽祭の存在こそが、ザルツブルクを世界有数の音楽都市としているのです。

「夏の音楽祭」と「モーツァルト週間」ではウィーン・フィルが中心的な役割を担う一方、「イースター音楽祭」の主役として長く君臨してきたのがベルリン・フィルでした。

そして2027年、このザルツブルク・イースター音楽祭が創始60周年を迎えます。

その歴史を語るうえで欠かせない人物が、ザルツブルク生まれの偉大な指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンです。

画像: カラヤンの遺産、故郷ザルツブルクへ

ザルツブルクが生んだ「帝王」カラヤン

ザルツブルク生まれの音楽家と聞けば、まずモーツァルトを思い浮かべるでしょう。しかし、現代の音楽史においてザルツブルクの名を世界に知らしめたもう一人の巨匠がいます。

指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンです。

1908年、ザルツブルクで病院長の次男として生まれたカラヤンは、1929年、現在もザルツブルクの主要な音楽会場の一つであるモーツァルテウム大ホールで指揮者としてデビューしました。

その後、ドイツを中心にキャリアを築き、1938年には初めてベルリン・フィルを指揮します。しかし、それはナチス政権下で、反ナチやユダヤ系の音楽家たちが活動の場を奪われていった、極めて困難な時代でもありました。

第二次世界大戦中もザルツブルク音楽祭は開催され、街が空爆による被害を受けるなか、終戦直後の1945年にも音楽祭が開かれました。

カラヤンが故郷ザルツブルクに戻り、音楽祭の指揮台に立ったのは1948年。その後、1955年にはベルリン・フィルの首席指揮者に就任し、1957年にはザルツブルク音楽祭の芸術監督となりました。

1989年に亡くなるまで、カラヤンはザルツブルクの音楽文化に計り知れない足跡を残したのです。

画像1: <音楽鑑賞の旅>『ザルツブルク・イースター音楽祭創始60年』~山本直幸講師の音楽の旅情報~
画像2: <音楽鑑賞の旅>『ザルツブルク・イースター音楽祭創始60年』~山本直幸講師の音楽の旅情報~

ベルリン・フィルのために生まれたイースター音楽祭

カラヤンの大きな功績の一つが、ザルツブルク・イースター音楽祭の創設です。

1882年に設立されたベルリン・フィルは、ウィーン・フィルやドレスデン・シュターツカペレなどとは異なり、基本的にオペラを演奏するオーケストラではありません。

一方、カラヤン自身はザルツブルク音楽祭だけでなく、ウィーン国立歌劇場やミラノ・スカラ座でも音楽監督を務め、オペラを数多く指揮していました。

しかし、ザルツブルク音楽祭でオペラを演奏するホスト役を担っていたのはウィーン・フィル。いかに「帝王」と呼ばれたカラヤンであっても、その立場を簡単に変えることはできませんでした。

そこでカラヤンが考えたのが、ベルリン・フィル自身がオペラを演奏する新しい音楽祭をザルツブルクにつくることでした。

こうして1967年、「ザルツブルク・イースター音楽祭」が誕生します。

これは単なる新しい音楽祭ではありませんでした。カラヤンにとっては、ベルリン・フィルにオペラという新たなレパートリーと活動の場を与えると同時に、故郷ザルツブルクに自らの音楽的遺産を築く試みでもあったのです。

画像3: <音楽鑑賞の旅>『ザルツブルク・イースター音楽祭創始60年』~山本直幸講師の音楽の旅情報~
画像4: <音楽鑑賞の旅>『ザルツブルク・イースター音楽祭創始60年』~山本直幸講師の音楽の旅情報~

原点はワーグナー

カラヤンは、夏のザルツブルク音楽祭との差別化を図るため、イースター音楽祭ではワーグナーの大作を中心に上演する構想を持っていました。

最初に取り上げたオペラ演目は、ワーグナーの「ワルキューレ」でした。1968年には「ニーベルンゲンの指輪」4部作の中、「ラインの黄金」と「ワルキューレ」、1969年に「ジークフリート」、1970年に「神々の黄昏」を連続上演しました。

ベルリン・フィルの圧倒的な演奏力と、カラヤンの壮大な音楽作りによって、イースター音楽祭はその独自性を確立していきました。

ワーグナーは、まさにこの音楽祭の原点だったのです。

そして、ザルツブルクで創始60周年を迎える2027年は、原点に回帰して「ワルキューレ」が上演されます。
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同行講師のご紹介

画像: 講師:山本 直幸氏

講師:山本 直幸氏

ベルリン留学中6年間、オペラ・コンサート通いの日を送る。
特にヨーロッパの歴史や音楽・美術への造詣が深く、長年音楽旅行企画に携わり、ツアーにも同行し現地で案内役も務める。海外添乗・駐在日数は4,000日以上。音楽雑誌等に音楽旅行記事を多数寄稿。

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