時には厳しい環境にさらされる山の中で、いつだって笑顔で旅人を迎え入れてくれるオアシスです。今回は八ヶ岳の山小屋のご主人お2人に魅力を語っていただきました。
司会はクラブツーリズムで登山ツアーの企画を行っている舘田が行いました。
今も昔も山小屋の憩の場所「薪ストーブ」で暖まる
舘田
今回はお話しをうかがう機会をいただきありがとうございます。
さっそくですが八ヶ岳の魅力を聞かせてくれませんか。
浦野
八ヶ岳は大きく分けて二つのエリアに分かれます。
標高が低くて山小屋が多い北八ヶ岳と、標高が高くダイナミックな自然が感じられる南八ヶ岳です。登山道が網の目のように多くて、いろんなルートを選べるのも魅力です。
初級者から中級者まで楽しめる山なんですよ。
私が働いている硫黄岳山荘は南の方。
硫黄岳の爆裂火口は本当に自然のダイナミズムと凄さを感じます。
何十年も山小屋をやっていますが、未だに一番好きな風景です。
小平
本当に違いますよね。八ヶ岳は山小屋が多いのも魅力だと思います。
舘田
お二人は八ヶ岳のどのようなところに惹かれているのでしょうか。
小平
実は子供のころは山が嫌いだったんです。
働く気もなかった。
山小屋育ちの私にとっては、レジャーではなく生活の場。
中学校の遠足で八ヶ岳に行くんですけど、泊まったのも「実家」ですから。
何が楽しいんだろうって思っていました。
でも、年を重ねるごとに大切なものになってきました。
山小屋に訪れる人や働いている人、今も三代目として現役の叔父さんなどの影響が大きいです。
浦野
あ、それ私も。
山小屋育ちだと興味を持ちにくいんですよね。
小平
興味をもったのは、さまざまな人々との出会いがあったからです。
山小屋はたくさんの人が訪れる情報の交差点です。
山を行き交う人々の安全を見守る所でもあり、自然を守る所でもあります。
うちには昔から薪ストーブがあるのですが、そこが憩いの場所。
山は寒いですから、みんな自然と集まってくる。
薪ストーブで暖まりながら、中高年から若者まで世代を超えてコミュニケーションが広がる。
私はそういう光景を見ていると子供の頃を思い出し、昔から変わらない眺めに心が温まります。
浦野
私も山小屋育ちですが、家を出て東京で働いていました。
不自由もなかったんです。
でも、何かが足りないと感じ、家族三人で戻ることにしました。
それから硫黄岳山荘を切り盛りしています。
山の魅力は肩肘張らずに自然体でいられることです。
登山も楽しいです。
山に入るとリフレッシュできるし登頂したときの達成感は体にじんわり染み入ります。
硫黄岳山荘の周辺は高山植物も多くて、コマクサ、ツクモグサ、ウルップソウ、ほかにもいっぱい!
南八ヶ岳の環境は特殊で、厳しい自然環境の中でしか咲かない花も多いんです。
一見かれんな小さな花々が、厳しい環境の中でしたたかに咲いている。
そんな様を見るとなんだかすごく嬉しくなってきて「ここに咲いているよ!」と一人でも多くの方に教えたくなってしまいます。
名物料理にも歴史あり美味しい山小屋料理
舘田
八ヶ岳の山小屋といえば、さまざまな工夫をしているところが本当に多いですよね。
浦野
一カ月に一度ほど、山小屋の主人やスタッフなどが八ヶ岳の観光協会に集まっています。
だいたい二十人くらいが集まるのですが、お互いの近況などを話したりするので刺激を受けます。
それぞれ良くしようとする工夫が見られるので、参考になることも多いですよ。
山小屋同士仲が良くなれるのもいいところです。
小平
自然の中にはいるけれど、登山者にはできるだけ不自由をしてほしくないですから、良いことがあればできるだけ取り入れていきたい。
麓と同じようにとはいきませんが、山小屋の宿泊を清潔・快適に過ごしてしただきたいと思っています。
浦野
快適な生活には例えば電気が必要になります。
発電をしているので、シャワーを使ってもらったり、お風呂に入ってもらったりということもできます。
それと温水洗浄便座も導入しています。
自然環境を壊さないように注意して発電用の水車を置いています。
あと食事ですね。
これは八ヶ岳の山小屋では頑張ってこだわっている方も多くみられます。
舘田
お二人の山小屋の食事はどのような特徴がありますか。
小平
特徴といえば馬肉のスキヤキとボルシチでしょうか。
長野県では古くから馬肉を食べる文化があり、馬肉を使ったスキヤキもよく食べられています。
歩いたあとは栄養価の高い馬肉がおすすめ。
提供しているのは先代から受け継いだ割り下におかみさんのアレンジが加わったオリジナルの味付けです。
ぜひ、登山者の皆さんにも郷土の味を知っていただきたいです。
ボルシチは私が働き始めるよりもずっと前からあるオーレン小屋の名物料理で、根強いファンが多いです。
また食べたいというご要望があったので、復活させることにしました。
浦野
私のところは両親が育てた自家製野菜をたくさん使った料理に力を入れています。
農園を営んでいて、新鮮な野菜が手に入ります。
美味しく食べていただきたくて、野菜がごろごろ入ったカレーやズッキーニのステーキなど、素材の持ち味を生かした料理をお出ししています。
カレーは取れた食材などによって欧風カレーになったり、スープカレーになったりいろいろ変わることもあります。
スタッフの個性が出て味が変わることもあります。
旬の野菜をたくさんお召し上がりください!という感じです。
それと、残った食材は堆肥にして、畑に戻すようにしています。
自然からいただいたものは自然に返すというのも気を付けていることの一つです。
舘田
これから山に行くときは山小屋の宿泊も楽しみになりますね。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!