『旅路』という言葉に象徴されるように、旅人が必ず辿るのが「路」です。
旅の文化研究所研究員、一般社団法人日本旅行作家協会会員の黒田尚嗣(くろだなおつぐ)が「歴旅の演出家、旅する世界遺産の語り部」として「旅と路」について語ります。
画像: 黒田尚嗣(くろだなおつぐ) 慶應義塾大学経済学部卒。現在、クラブツーリズム㈱テーマ旅行部顧問として旅の文化カレッジ「世界遺産講座」を担当し、テーマ旅行の企画をしながら「歴旅の演出家、旅する世界遺産の語り部」として旅について熱く語る。近畿日本ツーリスト時代より海外旅行の企画に携わり、世界各地の文化遺産や自然遺産を多数訪れている。旅の文化研究所研究員、一般社団法人日本旅行作家協会会員

黒田尚嗣(くろだなおつぐ)
慶應義塾大学経済学部卒。現在、クラブツーリズム㈱テーマ旅行部顧問として旅の文化カレッジ「世界遺産講座」を担当し、テーマ旅行の企画をしながら「歴旅の演出家、旅する世界遺産の語り部」として旅について熱く語る。近畿日本ツーリスト時代より海外旅行の企画に携わり、世界各地の文化遺産や自然遺産を多数訪れている。旅の文化研究所研究員、一般社団法人日本旅行作家協会会員

「観光」という言葉の意味

私の「路(みち)」についての一番の想い出は、名神高速道路の開通間もない昭和40年に、家族旅行で西宮ICから栗東ICまでを走った記憶です。

当時は道路を利用する際に料金を支払うという感覚もなかったので、子供心にも鮮明に感じると同時に、移動の時間が短縮されたことにより、観光地での滞在時間が増えたことを実感した旅行でもありました。
それまでは未舗装の道路も多く、目的地に着いた時には疲労困憊で、満足のいく観光はできませんでした。

画像: 東名高速道路 さった峠付近(イメージ)

東名高速道路 さった峠付近(イメージ)

ちなみに「観光」という言葉は約3500年前の中国周時代の古典『易経』の一節
「国の光を観る。もって王に賓(ひん)たるに利あり。賓あらんことを尚(こいねがう)なり」
に登場し、「観光」という行為は、その国を治める国王が、自国の未来を予見するための視察であり、「国の光」とはその土地の豊かな自然とそこで営まれている人々の暮らしや伝統文化を指し、「国のすぐれた良いところ」という意味です。

古事記に収録されている倭健命の有名な歌に
「倭(やまと)は国まほろば たたなづく 青垣 山ごもれる 倭(やまと)しうるわし」
(大和は国々の中でも格別に優れた国だ。幾重にも重なる青々と木々の茂った山々。
その山々に囲まれた大和こそは本当に美しい国だ。)
がありますが、この歌に登場する「まほろば」こそ「国の光」であり、これに接することで王は心身共に豊かになって、王は新たな光を発することができたのです。

すなわち、「観光」とは本来、国王をはじめとする特権階級が、国を統治するために現地を調べ、将来の施策を占う大事な仕事で、『易経』はそれを占う指南書だったのです。

よって、今日われわれ庶民が観光の旅に出かける際には、「観光」本来の意味に鑑み、訪問地での滞在時間を十分にとって、その土地の自然や伝統・文化に触れ、何か新しい気付きや感動を体験するべきなのです。

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その意味で高速道路の果たした役割はとても大きく、観光地への移動時間の短縮によって観光本来の体験ができ、気付きも増えたような気がします。

「旅」に出る理由

北村薫作『空を飛ぶ馬』という小説の前書きに「小説が書かれ読まれるのは人生がただ一度であることへの抗議」という言葉があり、私はこの「小説」を「旅」に置き換えると、旅行も同様かと思います。

すなわち、人生は一度限りなので無限の可能性の中からただ1つ選んで生きるしか方法がありません。

そこで、私は一度限りの人生に抗議する意味で、別の土地に生きる別の自分のストーリーを思い描くためにドライブに出かけるのです。

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言い換えれば、自分の生きるている「物語」と旅先の「物語」とが織り成す新しい「物語」を創造する体験の旅を目指しています。

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「高速道路」と「旧街道」を利用する旅

そこで私のドライブ旅行は、往路には高速道路を使い、目的地で十分な観光地をとった後、復路は一般国道や旧街道をのんびり走り、途中の宿場町に立ち寄ったりもします。
今では高速道路網が全国各地に張り巡らされており、以前より目的地には早く到着できるので、帰りにほんの少し寄り道をするのです。

人生のほんの数時間、本来の道からそれて寄り道することにより、学べることがいっぱいあります。

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よって私が高速道路を走る際に心掛けていることは、高速道路でのドライブを単なる移動時間と考えるのではなく、観光要素も組み入れることです。

具体的には、事前にルート上の名所旧跡を調べ、走行中は道路標識や案内板に加えて山や川の位置、さらに高速道路の通っている地形から、旧道がどこを走っているかを類推しながら走るのです。
また、必要に応じて道中のSAやPAで旅情報を仕入れ、もちろん食事も検討します。

例えば、東京から熱田神宮に参拝に行くケースを考えると、往路は東名高速で一路、名古屋を目指しますが、道中は旧東海道の宿場町を連想しながら走ると楽しみが増えるのです。
そして帰路には、途中の音羽蒲群ICで降りて、東海道53次の35番目の宿であった御油宿の古い街並みや東海道随一と言われる『御油の松並木』を走れば、旅の想い出も一層深まります。

画像: 御油の松並木(イメージ)

御油の松並木(イメージ)

この御油宿から赤坂宿までは、53次の中でも最も短い区間(2km弱)で、この地は東海道線の乗り入れに反対したために、結果的に昔の良き風情を今に残しているのです。

旅のエッセンス「五浴」を体験

そして時間的にゆとりがあれば、行基菩薩が発見したと伝えられる愛知県内有数の古場である三谷温泉で一休みするのもお勧めです。
というのも、私が高速道路を使った旅行で心掛けている「五浴」の筆頭が温泉浴だからです。

「五浴」とは人間の健康上、体力回復に必要な5つの「浴」で

1.温泉浴(日本人が好む究極のリラクゼーションで地球のエネルギーを吸収する)

2.日光浴(適度な太陽光線を浴びることによる新陳代謝の促進)

3.森林浴(新鮮な酸素とα波を呼ぶ森のフィトンによるリラクゼーション)

4.海水浴(血液の成分に近いミネラルの吸収、海の潮風を浴びるだけでも効果あり)

5.イオン浴(川のせせらぎや滝のマイナスイオンと地球の大地に裸足で触れる)

を取り入れることにより、長時間の高速運転の疲れをとるだけでなく、健康増進とリラクゼーション効果を得ることができるのです。
そこで日頃のドライブで高速道路を走る場合には、是非ともこの五浴と旧街道を意識していただきたいと思います。

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なぜなら、今日の高速道路も旧街道を考慮して造られており、SAやPAは江戸時代の宿場町のような役割を果たしていることが、高速道路と旧街道を走ることで実感でき、単調な高速道路の移動の旅も想い出深い「観光旅行」になるからです。

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