第8回目は、ルネサンスの三大巨匠の最後のひとりラファエロ。37年の短い生涯をどう生きたのか。優美な作品からは連想できないラファエロの素顔や、ダヴィンチやミケランジェロとは違った意味での‟天才”と呼ばれる所以についてご紹介したいと思います。(2021年12月28日更新)
第8回と第9回で、ラファエロについて紹介していきます!
‟ルネサンスの貴公子”ラファエロの太く短い人生 10代で才能は開花!
ラファエロは、37年という短い人生ながら、残した作品は120点以上とも言われています。
88年の長寿を全うしたミケランジェロ、遅筆と言われたレオナルド・ダヴィンチと比べても、短い期間に多くの作品を残したことは疑いがありません。
早熟の画家と呼ばれるほど若くして認められてから、熱病で急逝する間際まで、画家としての人生を駆け抜けたラファエロ。一体どんな人物だったのでしょうか。
ラファエロ・サンティは1483年に、フィレンツェの東110kmほどのウルビーノで生まれました。ウルビーノは、今でこそ山あいの小さな町ですが、ラファエロが生きたルネサンスの時代は、洗練された宮廷文化が花開いた都市でした。
父親が宮廷画家であったため、幼いころから宮廷文化を身近に触れながら育ったと言われています。その後、11歳までに母と父を立て続けに亡くしてからの細かい経緯は分かっていませんが、画家としての才能と興味を自覚したラファエロは、修行ののち、17歳の頃には既に作品の受注を受ける一人前の画家になっていたことが記録として残っています。
17歳でもう一人前の画家…かなり早咲きと言えますね!
ラファエロは元来、穏やかで礼儀正しく、人あたりの良い社交的な性格であったと言われています。
自画像のとおり、端正な顔立ちで身のこなしも優雅だったとか…
ラファエロのこういった人となりは、彼の人生にも大きく影響を及ぼすことになります。
芸術の都フィレンツェ 三大巨匠、集結
ラファエロは21歳の時、憧れの地フォレンツェへと拠点を移します。1504年のことでした。
1500年にはレオナルド・ダヴィンチが、ミラノ公国からフィレンツェに戻っており、ミケランジェロもまたフィレンツェに滞在し、ちょうどダビデ像の完成にこぎつけていた頃でした。
ここで、3人の巨匠がフィレンツェに集結したのです。
少し、3人の関係を時間軸で整理してみましょう。
レオナルド・ダヴィンチは、ミケランジェロやラファエロと比べるとひと回り上の世代と言えますが、3人は1500年代の初めに、ルネサンス芸術が花開いていたフィレンツェや、ローマ教皇のお膝元ローマ(バチカン)で同時期に活躍し、互いに刺激、影響しあっていたのです。
特にラファエロは、持ち前の柔軟な性格と吸収力で二人の巨匠から多くを学んだと言われています。
ラファエロの残した作品から、ダヴィンチやミケランジェロの影響を探ってみましょう。
ラファエロの代名詞『聖母子』の変遷には、ダヴィンチが影響?
まず、ラファエロがフィレンツェにやってくる前、もしくは移ってすぐに描いた作品をご覧ください。
皆さんが思い浮かべるラファエロの作品とは、だいぶイメージが異なるのではないでしょうか?
ラファエロ作品の象徴ともいえる、人物の優しく穏やかな雰囲気は既に醸し出されていますが、全体的に配置が整然としており、聖母の顔もやや面長な印象ですね。
これは、ラファエロがそれまで主に影響を受けていたペルジーノという画家の特徴にならったものと言われています。
続いて、下記の2枚の絵画をご覧ください。
絵画の構成や色合いなど、とてもよく似ていませんか?
左はレオナルド・ダヴィンチが1478年に描いた、比較的初期の作品「ブロワの聖母」です。
対して右は、ラファエロが1506~7年頃に描いた「カーネーションの聖母」です。
ダヴィンチの作品からは、母子がそれぞれ柔らかい動きと曲線によって描かれ、お互いの関係性を生み出す構図などを模倣していると言えます。先ほど紹介したフィレンツェ以前の画風と比べると、人間にだいぶ動きがでていることがわかりますね。
一方で、2枚の作品を見比べると、ダヴィンチとラファエロ、それぞれの個性もはっきりと感じると思います。ラファエロの作品からは、青や黄色の色味が強調された暖かみが感じられ、彼らしいともいえる優しそうで美しい聖母の表情を見ることができます。
ラファエロはまた、8歳上のミケランジェロからも、多くを学び、自らの作品にその技術を取り入れたと言われています。ミケランジェロが得意とした筋肉の表現や躍動感あふれる人物像などは、ラファエロのフィレンツェ、そしてローマ時代の作品にも大いに影響を与えており、それがミケランジェロとの関係を複雑にしたと言われているのですが…
それについては、次回、ローマ・バチカン教皇の壮大なプロジェクトとともにご紹介したいと思います。
時代を超えて愛される、ラファエロの聖母
では、ダヴィンチやミケランジェロら、周囲の天才たちから多くを学んだラファエロが、最終的にたどり着いた‟聖母”とは・・・?
ラファエロが‟聖母の画家”とも呼ばれるに至った、集大成ともいえる作品は、こちらの2点です。
現代の私たち誰が見ても、間違いなく「美しい聖母」と感じるのではないでしょうか。
その普遍的な美が、ラファエロの描く聖母の魅力であり、ラファエロが追求した美への工夫であったと考えられています。
左の「小椅子の聖母」は、トンドと呼ばれる円形画に、聖母マリアと幼いイエス・キリスト、聖ヨハネが描かれています。
よく見ると、聖母は左足を上げた不自然な座り方をしていますが、全体としては円形の構図の中にうまく収まって安定した印象になっています。赤・青・緑3色の鮮やかな色使いながら絶妙な色彩の調和がとれており、ラファエロの秀逸な技術が詰め込まれた1枚です。
一方、右の「システィーナの聖母」については、向かって左の聖人がユリウス2世に似ていることから、ユリウス2世の依頼による作品と言われています。ラファエロの晩年に描かれ、結果として最後に描いた聖母子像となりました。
真正面を見据えて毅然とこちらを見つめる美しい聖母は、近くで私たちに何かを語り掛けるような親近感さえ感じます。
下部で肘をついて、ちょっとつまらそうに見上げている天使たちは、まるで子供のような人間味を感じさせます。
この部分だけが切り取られてグッズになったりと、現在でも人気があります。
ここだけ見覚えがある、という方もいらっしゃるかもしれません。
信仰の対象でありながら、‟なんとなく身近に感じる”聖母マリアへの親近感は、ラファエロ絵画の大きな特徴ともいえます。
ラファエロがこのような聖母を描くことができたのには、いくつかの理由が挙げられています。
- 早くして亡くした母への思いが理想として反映されている
- 絶対的な理論のもと描かれたダヴィンチの美に対して、ラファエロの美は感情のもとに描かれた
- 端正な顔立ちで優しいラファエロのまわりには、モデルとなるような女性が常にたくさんいた
美しい女性を描くには、多くの女性と付き合わなければいけない
という名言?も伝えられています、、、ラファエロをとりまく環境が、現代でもなお人々を魅了する聖母を描かせたことは間違いなさそうですね。
おわりに
今回は、ラファエロがダヴィンチから受けた影響、そして‟聖母のラファエロ”と言わしめるに至った画風の変遷などを中心にご紹介させていただきました。
次回では、ローマ時代を中心に、‟プロジェクトリーダー”としてのラファエロの才能や、ミケランジェロとの関わりについてお話をしたいと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。次からさらにラファエロについて深掘りしていきます。次回シリーズも是非ご覧ください。
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1回目「ダ・ヴィンチだけじゃない!ルネサンスって何?」
2回目「世界に轟く天才の名、レオナルド・ダ・ヴィンチとは!?」
3回目「意外と知らないダ・ヴィンチ真作の秘密」
4回目「失われた絵画!?ダ・ヴィンチ VS ミケランジェロ?」
5回目「生まれながらの彫刻家ミケランジェロ、運命の出会いとピエタ像」
6回目「孤高の職人ミケランジェロ ~偏屈キャラって本当?」
7回目「画家ミケランジェロ ~後半生をかけた魂のフレスコ画~」
8回目「“聖母のラファエロ” ダヴィンチからの影響と美へのこだわり」
9回目「天才ラファエロはルネサンス時代の有能なプロジェクトリーダーだった」
10回目「ルネサンスの天才が残したもの、私たちが出会うもの」
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