日本各地の有形無形の歴史的魅力を”ストーリー”に昇華し、時空を超えた壮大な世界観を物語として讃える認定制度です。
旅の文化研究所研究員、一般社団法人日本旅行作家協会会員の黒田尚嗣(くろだなおつぐ)が「歴旅の演出家、旅する世界遺産の語り部」として、日本遺産を訪ねる旅の楽しみ方について熱く語ります。
日本遺産は時空を超えて楽しむべき
最近は、日本遺産ツアーに専任講師として同行する機会が増えてきましたが、未だにユネスコが認定する世界遺産と文化庁が認定する日本遺産を混同されていらっしゃるお客様が多いのが現状です。
世界遺産が遺跡、景観、自然など人類が共有すべき”顕著な普遍的価値”をもつ物件であるのに対し、日本遺産は地域の文化や伝統を物語る”ストーリー”であり、文化財を活用して日本の魅力を国内外に発信すると同時に地域の活性化を図る日本の事業です。
そこで日本遺産の旅は、従来の物見遊山ではなく、各地の豊かな自然や伝統・文化に触れて、新しい気付きを得る学びの旅であり、この点を理解していないと面白味は半減するでしょう。
日本遺産ツアーの魅力は、その”ストーリー”を通じて、伝統文化に根ざしたイメージが広がり、時空を超えた楽しみを追体験できることにあります。
今回は、日本遺産の旅を楽しむための大事な3つのポイントを語ります。
<その1>日本遺産のストーリーにある世界観を知ろう!
”日本遺産”は、そのストーリーを知れば知るほど面白くなるのですが、日本遺産のコンセプトは、城めぐり等のテーマ旅行に参加されるお客様にも通じるものがあります。
従来は城ファンでも日本城郭協会が定めた日本100名城をスタンプラリー的に巡る方が多かったのですが、最近では天守閣や石垣などの目に見える部分だけでなく、城の歴史に関心をもち、縄張り図を手に入れて攻略法を考え、さらには城主の人物像や城下町など城に関する物語に興味を抱くお客様が増えています。
そうなると、一つの観光地として城を見学していた時とはまったく違う観点から城が見えて来ます
日本遺産としての城は、例えば岐阜城が”信長公のおもてなし”として登録されていますが、これは軍事施設である岐阜城を見学するだけでなく、城下一番の最高のおもてなし空間を体験してこそ日本遺産のストーリーになる一例です。
日本遺産のストーリーから広がる豊かな世界観を知ることに醍醐味があります。
<その2>日本遺産ポータルサイトを活用しよう!
神奈川県伊勢原市に、江戸庶民の信仰と行楽の地で知られる『大山詣り』という日本遺産があります。
大山は山頂の石を神とする石尊信仰に仏教の不動尊信仰が加わった霊地で、歌舞伎や浮世絵に取り上げられた『大山詣り』は、今日の単なる神社参拝やハイキング等ではなく、鳶などの職人たちが、巨大な木太刀を江戸から担いで運び、滝で身を清めてから奉納、山頂を目指すといった、当時の庶民参拝の信仰文化でした。
このような”ストーリー”が日本遺産のポータルサイトには書かれてあります。
それを知らないまま訪ねても、当時のにぎわいを想像することは不可能でしょう。
江戸の人口が100万人の頃に、年間20万人が参拝していたのが大山です。
時空を超えて江戸の職人たちの信仰心に触れたのち、山頂から眼下に広がる景色を目にすると、単なる登山とはまったく違った満足感を得ることができるでしょう。
<その3>興味を抱いた歴史物語から探求しよう!
日本遺産の中にはわかりやすいストーリーもあれば、時代や文化、流通や大陸からの影響などあらゆる歴史的要素を紐付けて考察しなければ読み解けないストーリーもあります。
そこで、時にはストーリーへのアプローチに際し、歴史的人物や旧街道など別の角度から読み解く手法が必要かもしれません。
例えば、三重県の『祈る皇女斎王のみやこ 斎宮』では、わかりやすく読み解くために、ストーリーの中の人物にフォーカスするのも手です。
私なら伝説上の初代斎王であり、伊勢神宮起源伝承で知られる倭姫命の生涯から斎宮の歴史を説明します。
倭姫命の立場で歴史を追いながら現地を訪ねると、伊勢神宮のルーツである元伊勢の意味も理解でき、そこで味わう古代米や地元産の料理までもが斎王になった気分で楽しく味わうことができます。
歴史はどの立場から俯瞰するかで、時代の様相も解釈もがらりと変わります。
そこで、日本遺産のストーリーを直接的に理解しようとするのではなく、関心や興味を抱いたところから探求することで理解が早まり、また、楽しみ方も違って来ます。
多彩な日本遺産を満喫するコツ
最後に、私なりの日本遺産の旅の楽しみ方を広げるコツをご紹介します。
福井県の『海と都をつなぐ若狭の往来文化遺産群~御食国(みけつくに)若狭と鯖街道』は、旧街道でツインタイムトラベルを楽しむことがポイントです。
ツインタイムトラベルとは、現代に生きる私たちが過去の時代背景をイメージしながら旅することです。
サバの行商人になったつもりで若狭から京都まで峠越えの旧道を歩き、旅の4要素である、
①観る ②食べる ③遊ぶ・学ぶ ④買う、を鯖街道と連動させて体験するのです。
鳥取県の『地蔵信仰が育んだ日本最大の牛馬市』は、今日では見られない伝統行事の存在を知ることがポイントになります。
大山の山頂に現れた万物を救う地蔵菩薩への信仰と、牛馬の加護を願う人々の当時の生活様式や価値観を知ると、全国唯一の「大山牛馬市」が隆盛を極めた世界が見えて来ます。
また、同じ鳥取県の『六根清浄と六感治癒の地』では、”日本一危ない国宝”三徳山投入堂参拝で修験の道を体験し、”世界屈指のラドン泉”三朝温泉で湯治という日本遺産が究極の心身鍛錬と癒しの方法を提供してくれています。
こうしたイメージが見えてくると日本遺産のストーリーが、どんどん膨らんできます。
一方で、長崎県の『国境の島 壱岐・対馬・五島~古代からの架け橋』では、歴史のストーリーを島旅で味わうことがポイントになります。
長崎の島々はキリシタンや教会が先に思い浮かびますが、古代から日本と大陸を結ぶ海の要衝で、最澄と空海が遣唐使船に乗って、五島から唐に渡りました。
古代より大陸との架け橋であったこれらの島々をめぐり、その歴史に親しめば、日本は島国であることを再認識すると同時に島旅でしか体験できない感動が得られるでしょう。
日本遺産の旅は、自分が生きてきた世界と旅先での感動が織りなす新しい旅物語の創造でもあります。
本書の日本遺産ストーリーを参考に、皆さんが新たな日本の魅力を発見し、思い出に残る旅物語になれば幸いです。
出典「一個人 日本遺産を旅する2」一個人編集部編 KKベストセラーズ
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